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「環境的には満たされすぎてるのに私の心は満たされません。これって幸せだと言えるのかしら?
皆尊い労働に励んでいるというのに……世間的には怠け者ですわ!」
――たぶんお嬢様が就職したらブラック企業もホワイトになるだろうな。1ヶ月後は上場企業になるだろう。役員まで爆速で駆け上がり、飽きてしまわれるお嬢様の姿が目に浮かぶ。
心中で乱麻はつぶやく。
それにしてもひっかかるのは。
「私は謎を解きたいの!」
果報のこの発言である。
「先程もおっしゃっていましたね」
「聞いていたの?!」
果報の白い肌が薔薇色に染まる。
「もちろん。ミュージカルの舞台女優のごとく美しいお声がお庭に響いておいででした。内容はともかく、庭師集団がうっとりしていましたよ」
幸福最上院家の一族に共通する趣味、それは映画、舞台、ドラマ、小説――エンターテインメント作品全般であった。なにせ一族の人生には悲劇も驚きの展開も存在しない。全部上手くいって当たり前。ハラハラドキドキはエンタメの中でしか体感できないのだ。
特に果報が最近ミステリーにハマっていることはリクエストされる品物から使用人たちも把握していた。おおかた「謎を解きたい」というのもミステリーに影響されてのことだろう。
「なんかこう、事件に巻き込まれたりしたいのです! 謎を解くだけの頭脳は持ち合わせていると自負しておりますし。
犯人を追い詰めるスリルを味わいたいのです!」
「無理ですね。お嬢様、いえ幸福最上院の一族は強運すぎる星の元に生まれています。」
執事は主の要望を一刀両断し、外国人じみた仕草で肩をすくめてみせた。
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