幸福最上院果報は謎を解きたい

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「雪山の別荘で、吹雪に見舞われて逃げ出せない中次々人が襲われるとか」 「気候が急変して快晴続きになるでしょうね。  もっと言うなら犯人が目論む計画はことごとく破綻、別荘に着く前にボロを出して捕まりそうです」 「絶海の孤島で、船が来なくて電波も通じなくて一人一人殺されていって……」 「おそらくお嬢様が到着する前に5G対応地区になりますね。島は急速に栄え、たとえ無人島でもお嬢様到着時にはテレビで取り上げられる観光名所になるでしょう」 「むむむ」  うなる姿は顔立ちも相まって大変に愛らしい。いや、本人は真剣なのだが。  黙り込んだ果報は、やがて「いいこと考えついた!」という風にポン! と手を打つ。 「広大な屋敷で起こる連続殺人事件ってのはどうかしら!?   おあつらえ向きの舞台ならここにあるわ!」  バッ! と両手を広げる無邪気な笑顔に執事は数秒見惚れたが、コホンと咳をして間違いを正さずにはいられなかった。 「あいにくですがお嬢様、この屋敷が建ってからというもの不審者はネコの子1匹通したことはございません。よからぬことをたくらむ者はそもそもお嬢様に近づけませんよ。  またこの敷地内で殺人はおろか、怪我をした者はおりません。ご存知でしょう?」 「……むう」  果報は頬をふくらませる。彼女は怪我をしたことがない。病気をしたこともない。使用人ですらこの敷地内で働く限り身の安全は高レベルで保証されている。死体どころか、人の血すら実際に見たことがなかった。どちらも画面を通してしか知らないのだ。  徹頭徹尾、犯罪とは縁のない一族であった。  幸福すぎる令嬢はイライラを募らせていたが、紅茶を飲み干した後、覚悟を決めたように席を立った。 「乱麻、出かけるわよ!」 「どちらへ?」 「探偵事務所に行くのよ! そこなら事件の1つや2つあるでしょう! そう決まっています!   そして、私が解決してみせるわ!」 ――無駄だとは思いますが。  またしても心の中でつぶやいた乱麻はしかし、インカムで送迎のヘリを手配するのだった。
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