辛杉家の憂鬱 シン編2 キャンプで遭遇

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 そう、黒い岩ではなく黒い熊さんだった。どこからどう見ても立派な熊さんだ。  それを認識したオレの思考回路はショート寸前。  ゲームでモンスターにエンカウントするのはいいが、待ってくれこれは現実だ。こちらは折れた木の棒一本という軽装備。相手は立ち上がったら二メートルはあるんじゃないかという熊さん。なにこのクエスト。無理ゲーが過ぎないか?  ここまでの文句を0・5秒で脳内に開陳し、混乱を極めた頭で生存ルートを探った。いつもつけている布マスクの下の顔は、早速汗で湿っていた。  相手は熊。くま、クマだよな。遭遇したときの対処法は確か。そう、冗談みたいな話だったが話しかけるんじゃなかったか?  思い起こしているうちにも、遭遇してしまった熊さんはのそりと俺のほうに体を向けた。やばいやばいやばい! しゃべれオレ! 「えー、本日はお日柄もよく……」  オレはなにを言ってるんだ見合いかよ。  口を突いて出た言葉に自分でびっくりしながら、慎重に後ずさる。 「いやあ、イイ天気デスネ?」  緊張のあまり母国語すらカタコトになる始末だ。熊に有効かはわからないが、オレは両手を上げてハンズアップの状態だ。木の棒は放していないけれどもなんならばんざいってくらい手を伸ばしている。文字通りのお手上げだった。
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