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私は今……「部屋に案内する」と、ウィリアム様直々に自室に案内していただいている。
「使用人にさせることではないのですか?」
私の質問に、ウィリアム様は苦い顔をしました。
「ウチの使用人は……コックと庭師以外は主に『仕事』のために雇っている奴らだ。……ああ、お前のためにメイドは雇ったから安心しろ」
はあ、としか声が出てないことに気づいて、慌てて頭を下げる。
「わ、わざわざ……あ、ありがとうございます」
「さすがに、俺に寝起きの顔を見られたり、ドレスを着せられたりするのは嫌だろう」
なんてウィリアム様はくすりと笑ったけれど。
「別に、かまいませんけど……」
ギョッとした顔でウィリアム様がこちらを見る。
「おま……」と、言葉を無くすウィリアム様に、私は更に続ける。
「既に夫婦ですし……夫婦間では、あんなことやこんなこともあるのだと以前、父の本で読みました」
「その本の内容は、今すぐ、全て忘れろ」
「え? あ、はい」
何か変なことだったのでしょうか?
私は首を傾げた。……天井や床下、壁から微かに笑い声が聞こえた。
自室に到着した。
「出てこい」
ウィリアム様の声と同時に、どこからか黒ずくめの少女が出てきました。
「お呼びですか」
「ああ。お前が仕える、俺の、妻だ」
ほうほう、と少女は私を、値踏みするよう観察し、深々と頭を下げた。
「わたしはメイドの──……シノとお呼びください。奥様」
今の間は何だったんだろう──?
「あー、シノがお前の身の回りの世話をする。好きに使え」
「あ、はい」
何かの合図だったのか、ウィリアム様が指を鳴らすと、シノは瞬きの後にはいなくなっていた。
ウィリアム様がまた、私を観察──いや、今度は普通に見ている。そして口を開いた。
「お前、目はちゃんと視えてるのか?」
──なるほど。私の見目を気にして……
たしかに、私は珍しい見目をしていると自負しています。長く真っ白な髪に真っ白な肌……そして──真珠のような瞳。
没落しているとはいっても、貴族でなかったら今頃はサーカスか何かで見世物になっていてもおかしくなかったでしょう。
「ご心配には及びませんよ。ちゃんと見えてます」
ウィリアム様は、そうか、とだけ言った。
「ウィリアム様は、優しい方なのですね」
「……?」
ウィリアム様は困惑してるのか、眉間に皺を寄せている。私は言った。
「私を見た人のだいたいの感想は……『気味が悪い』なのですよ」
ウィリアム様の眉間に更に皺が寄る。
「ここへ来た時から、皆さん私のことを値踏みするように視てましたよね」
「そんなことは……」
「わかるんですよ。18年間も視られていたら」
「……完全に否定は、できない」
「でも、ウィリアム様はソファで、隣に座ってくださいましたよね。私の目が見えているのか、気にして」
「……! 気づいてたのか……」
ウィリアム様は俯いて、目を泳がせた。
「言ったでしょう? わかるんですよ」
ウィリアム様は申し訳なさそうに「すまなかった」と頭を掻いた。
……変わったお方です。
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