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 朝食の時間だ。  部屋に入ると既にウィリアム様が席に着いていいらっしゃいました。 「お待たせして申し訳ありません」 「いや、いい。女の身支度は大変だと聞く」  シノに椅子を引かれ、向かいの席に着く。 「それでも、奥様はお化粧の必要がありませんので、通常の女性より早く終わりましたよ」  シノが、くすりと笑った。  あの殴りかかる(彼女からしたら戯れぐらいの気持ちなのでしょう……)のがなかったら、もっと早かったことは伏せておきました。 「っだよ。もう揃ってんのー?」 「あ──えっと、テオ? で、合っていますか? おはようございます」  たどたどしいながらも挨拶をすると、あくびを噛み殺していたテオの表情が、とても楽しそうなものに変わった。 「っフハ! 楽しくなりそ」 「テオォォ……」 「っはーいはい。朝っぱらから殺り合うとかパスだから」  今にもこめかみの血管が切れそうなウィリアム様とテオ──2人の乱闘が始まらなくてなによりでした。  そして、テオは平然とウィリアム様の隣に座った。  ここでは使用人と主人が並んで食事をとるのか……などと感心していると、音もなく、シノも隣に座っていた。  壁掛け時計が半周した頃、ウィリアム様が思いきりテーブルを叩いた。  そんなに強く叩いたら壊れてしまうんじゃ……。 「おい……あいつは、また寝てんのか?」  どうやらもう1人来るらしいです。 「……あの、私、起こしてきましょうか?」  と、席を立つと、ウィリアム様は首を横に振った。  そして黙ってテオを横目でじとりと睨んだ。 「っはー、かったるー」  文字通りかったるそうにテオは部屋を出ていき、5分ほどで帰ってきた。……誰かを、引きずって。   「お前は毎度毎度遅い‼︎」  大きな怒声に思わず耳を塞ぐと、ウィリアム様の声が微かに小さくなった……気がする。  引きずってきた人を、テオが蹴飛ばした。 「ちょっ」  そこまでしなくても。  駆け寄ると、蹴飛ばされたというのにその人は、むにゃむにゃと未だ夢の中らしい。  女の子でしょうか? 肩まで伸びた色素の薄い茶髪と長いまつ毛……実に可愛らしい顔をしていました。 「おい! 起きろエルム!」  ウィリアム様にもう一度怒鳴られて、やっと「エルム」は目を開けた。綺麗な深緑色の瞳が私をぼんやりと見つめている。 「あ、おはようございまぁす」 「あ、おはようございます」  お互いに軽く頭を下げた。  周囲からはさぞかし滑稽に見えていることでしょう。  エルムは体を起こし、ぐーっと伸びをした──ところをテオに頭を叩かれた。  ……この家、これが通常なんだな。うん。慣れよう。けれどこの感じ、どこか懐かしいような気も── 「痛ぁいですよぅ」  頭をさすりながら、エルムは何事もなかったように席に着いた。  ウィリアム様、苦労してらっしゃるんですね──そう思い、ウィリアム様の肩にそっと手を添え、自分の席に戻った。  部屋は静まりかえって、とても居心地が悪い。早く料理がくるとよいのだけど──と思っていたら、タイミングを計っていたのか、すぐに扉が開いた。 「朝食です」  並べられた料理に手をつけようとすると、シノに、止められた。 「家柄が家柄だからな。毒味をはさむ」 「はい」  ウィリアム様の言葉に、私は頷きました。  私も分はシノが食べ、ウィリアム様は分はテオが食べた。 「異常ありません。どうぞお召し上がりください」 「っこっちも異常なし」  私たちは、無事に朝食を終えた。  
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