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「ウィリアム! 久しぶりだな!」
爽やかな挨拶に対し、ウィリアム様はものすごーく、露骨に嫌そうな顔をしていました。
この方は手紙を出した相手のお1人、エドワード様──。名家トラスト家の跡取であり、ウィリアム様の親友、らしいです。……ウィリアム様のお労しい(?)表情を見る限りでは、にわかに信じがたいけれども、本人たちが言っているのだから、まあ、そうなのでしょう……。
本日は、結婚を祝うという名目で──『仕事』の話をしにいらっしゃったご様子です。
エドワード様が動くたび黄金色の髪が揺れ、くっきりした二重の目と──エメラルド色の瞳と目が合う(なんだか見つめられているように感じる)。
また、値踏みされているなあ──。
居心地の悪さを感じる。馬鹿にされたり、罵られるのには慣れているけれど、これは苦手です。
──少なくとも今は、私は見世物ではないのだから。
ウィリアム様は、それに気づいたのでしょうか。
「リハビリがてら、庭でも散歩してきたらどうだ?」
お言葉に甘えさせていただくことにしました。
「……そうします。失礼致します」
私は言われた通り、庭へ出た。
そういえば、来た時はテオのナイフに気を取られて庭には意識がいかなかったけど……すごく綺麗なところ。様々な花が咲いているし、大きな木もある。
……とても、心地いい。
「あれぇ? 奥様じゃなぁいですかー」
木の上から顔を出したのは麦わら帽子を被ったエルムだった。
「エルム! なんでここに?」
「いや、こっーちのセリフなぁんですけど……」
──あ、もしかして。
「エルムがここの庭師さんなのですか?」
「そぉですけど」
私は庭を改めて庭を見まわした。
「こんなに広いのに、エルムが1人で管理しているんですか?」
「……まあ、そぅですけど」
「すごいですね」
「いや、そんな……」
麦わら帽子で顔を隠す仕草が可愛い。
「あ、そぅいえばぁ奥様、エドワード様の相手してたんじゃぁなぃんですかぁ?」
「あー……」
「察しましたぁ」
大変ありがたいです。
「ボクも、ぁの人苦手なぁんですよ。初対面の時に性別間違ぇられてぇ、連れて帰られそうになぁって」
「え?」
「あー、やぁっぱりーボクってそう見えますかぁー」
落胆……してるのでしょうか? 表情が読みづらい人です……。
「──まあ、あの、何はともあれ……連れていかれなくてよかったですね」
「旦那様がキレましたからぁー」
「あぁ、キレそうですね」
簡単に、光景が目に浮かびました。
ところで。
「エルム、せっかく庭に来たので……あと、まだ、戻りたくないですし……私も庭仕事をしてみたいのですが、忙しい、ですよね」
──はい。ダメ元で言ってみました。
不意に麦わら帽子が乗せられた。
「いーでぇすよ。花の植え替えとか、種まきくらいだったらむぅしろ手伝ってほしぃーです」
と、エルムはふんわりと笑った。
「ただし暑いんで、帽子はぁ被っててくださぁい」
「はい」
エルムが剪定をしている間に、私は花の種を丁寧にまいていく。初めての体験です。
……あのお家にいる時よりも、『殺し屋貴族』のお屋敷にいるほうが居心地が良いだなんて、お父様は思わないだろうなあ。
「どぉかしましたぁかあ?」
「ううん。──なにも」
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