67人が本棚に入れています
本棚に追加
4-2
夕方になって、エルムに言われて一足先に屋敷へ戻ると、書斎から大きな声が漏れていました。
「あの娘が欲しいんだ!」
エルムのことでしょうか? それともイヴ?
どちらにせよ、ウィリアム様も2人も、嫌な顔をしそうだなあ。
「『仕事』のことを知らない──この家のことを知らない田舎娘なら誰でもよかったんだろう? いいじゃないか。僕はアレが欲しい」
聴かないほうがいいんだろうな。
わかっているのに、耳をそば立ててしまう。
「観賞用にピッタリだ」
──やっぱり、そうですよね。
『わかるんですよ。18年間も視られてたら』
『言ったでしょう? わかるんですよ』
わかってしまうんですよ──。
「見世物じゃ、ないんだけどな」
ぼそりと、呟いた声は、ドアの向こう側には届かなかったみたいだ。
「奥様?」
「エルム……」
通りかかったエルムに、静かにするよう合図をし、ドアを指さすと、中からは相変わらずエドワード様の興奮した声が聴こえてくる。
経験者……故に察したらしい……「吐きそう」と、ばかりに顔をしかめた。
「だから言ってるだろ? 新しい女はこっちで用意するって」
その言葉が合図かのように、エルムは私の手をとり──私はエルムに手を引かれて走った。
連れられていったそこは、知らない部屋でした(まあ、まだ屋敷の中を把握しきれていないのだけれど)。
私たちは息を荒くして、しばらくその場に座り込んでいました。
そのついでに麦わら帽子を返そうとしたら、どうも走ってきた時に、どこかに落としてきてしまったようで「本当にごめんなさい」と、謝ったら、エルムはけろりとして「後で拾えばいいだけ」と、笑った。
「相変わらずぅ、変態だったみぃたいですねえ」
エルムは大きなため息をついた。
「ボクたちはぁ見世物じゃぁなぃんですけどね」
「あ──」
私が思ってたことを、当たり前のように、エルムは言ったのです。
「奥様もぉ、そぅ思いませんかぁ?」
「……思、う。思い、ます」
「でぇすよねえー」
あはは──と、エルムは声を上げて笑った。
そういえば、と私は思い出した。
エルムは、私のことを値踏みしませんでしたね。
最初のコメントを投稿しよう!