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1.一枚の写真
ゴミやガラクタを積んだ四頭立ての荷馬車が街の門をくぐった。
近くで馬車を待っていた孤児たちがそれに続く。
バルバロス・ハイドの朝が始まった。
廃棄物の街。
それがバルバロス・ハイドの二つ名であり、また存在意義でもあった。
周辺の街で出るゴミが、朝夕の二回馬車に乗って運ばれてくる。
この街に住む孤児たちはそれらを拾って生計を立てていた。
腐敗と老朽、絶望、貧乏人。
この掃き溜めのような場所を成り立たせているものたち。
中層以上の連中はこの地に寄りつこうとしない。
孤児の群れは、馬車の進行を妨げない程度の距離を保ちながらのろのろと進んでいった。
少し背伸びをすれば荷台のガラクタを漁ることができるだろうが、彼らはそれをしなかった。
御者が腰にさしているピストルは決してお飾りの代物ではない。
欲に負けた子供たちはみな、えらく耳のきく御者によってその生涯を終えている。
御者は仕事を邪魔されることがきらいなのだ。
彼らに人としての権利は与えられていない。
馬車の後ろについて行くことを許されているだけでもまだましなのだ。
群れの最後尾の、さらにやや後ろに、少女がひとり孤立していた。
ボロきれ同然のフードを深くかぶり、なにかに怯えるように背を丸めている。
「ねえ、なんでそんなに離れてるの」
最後尾の子供が彼女の近くに寄ってきた。
「ねえ、あのカノン砲の筒が見える?私たちであれを運んで、大儲けしない?」
「え、いや……」
「分け前は半分ずつね。名前は?」
そう言うとその子供は、無遠慮に彼女のフードを外した。
「え、メイリー!?」
悲鳴に似た叫びが上がった。
列の後方がざわつく。
メイリーと呼ばれた少女のフードを外した子供が、彼女を突き飛ばした。
「ちょっと、なんでいるのよ!」
周辺の孤児たちが集まってきて、口々に叫び始めた。
「お前みたいな勘違い貧乏女が、『初漁り』になんて来るんじゃねえよ」
「僕たちが来ちゃダメっていったよね、どうして来たの?」
罵声が飛ぶ。
責められる。
全ては、美しいものを好む彼女の性格が招いた災難。
このような賤民の巣窟で、平民よろしく綺麗なものを好きでいる。
生きるだけで精一杯な彼らからしたら、同じ立場であるはずの彼女がそんな崇高な趣味を持ち合わせていることがひどく憎らしかったのだろう。
孤児たちは一番上のものでも18に満たない。
彼らからしたら、いじめのきっかけなど些細なもので事足りるのだ。
「くたばっちまえ!」
一人の男子が手さげカバンをメイリーに当てようとしたところで、突然空砲が辺りに轟いた。
馬車の前側で、うっすらと硝煙が立ち上っている。
「次騒いだら殺す」
御者の言葉に従って、彼らはメイリーから離れて大人しく馬車に付き従っていく。
メイリーはその場に立ち尽くすしかなかった。
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