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メインストリートを抜け、馬車はトタン板の簡素な住処が密集するスラムの裏手に入っていった。
空気がほのかに赤みがかり、鉄っぽい臭気を帯び始めた。
目の前に大穴が姿を現した。
『錆の山』だ。
各地のゴミが投棄される場所。
あらゆる種類の廃棄物が穴の中に五つ目の山を作りつつある。
馬車は穴のふちに止まり、御者が下りて荷台を傾けた。
山積していたガラクタの山がすすけた霧を噴き出しながら穴の斜面を転がり落ちていった。
すぐに孤児たちが追う。
彼らは、やせ細った体からは想像できない跳躍力で一気に穴の奥まで下りた。
腐臭にまみれた『錆の山』は孤児たちからしたら文字通り宝の山だ。
ガラスの瓶、歯車、鉄の箱、刃こぼれしたサーベル。
金目になりそうなものを、持参した入れ物に片っ端から詰め込んでいく。
入れ物を用意できなかった者は大きなガラクタを手に抱えて急な斜面を登った。
山の斜面を十分に物色した彼らが錆の山を去って数分。
やせ細ったひとりの人影が、穴のふちに姿を現した。
メイリーだ。
目に泣き腫らしたあとがある。
十五歳の少女に、あのような仕打ちを受けてなお気丈に振る舞えるだけの精神力は備わっていなかったようだった。
長いこげ茶の髪は、先ほどの一悶着のせいで枝毛の数を数倍に増やしていた。
背を丸めているからか、年並の背丈がある彼女はいくらか小柄に見えた。
彼女は涙を拭い、大きく深呼吸をした。
他の子供同様に軽い身のこなしで穴の斜面を下り、瞬く間に穴の底に到達。
辺りを見渡すがめぼしいものは無さそうだった。
ゴミの中でも高価なものは、搬入直後の『初漁り』であらかた取り尽くされてしまう。
残った紙切れや腐った木材では、金にならない。
一週間前に『初漁り』から追い出され、生きるための金が底を尽きかけたメイリーは、意を決して身を隠しながら『初漁り』の集団に同行したが、結果はこの有様。
今日こそいくらかの金を稼いで何かを口にしなければ、ガラクタを漁る元気すらなくなってじきに死ぬ。
メイリーは袖をまくり、ゴミのかたまりの奥の方まで腕を突っ込んだ。
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