3.答え合わせ

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「さっきからうろちょろしやがって鬱陶しい」  しわがれた、ドスの効いた声。 「ファインダーってなんだ」  隣でガルドが耳打つ。 「価値のないものから美を見出す写真家さんのこと」  アマンダに教わった三種類の写真家のうちのひとつ。  やはりこの街は写真家への当たりが強い。  だがここで引き下がっていては、『十二の夢境』などには到底手が届くはずがない。 「私は歩く者(ワンダー)です!イピリアン・プロセスを撮りに来ました!」  彼女の言葉が活気のない路地にこだまし、一瞬の静寂が訪れた。 「ガハハハハハハハハ!」  突然の笑い声。  驚いたメイリーの視線の先には、涙を浮かべて肩を震わせるあの老人。 「てめえら、こっちに来いや」  彼が手招きをした。 「どうする?行っても危ない気がする」 「初めて私たちの話を聞いてくれた人だもん。このチャンス無駄にはしたくない」 「分かったがいざとなったらすぐ逃げるぞ。こんなとこで料理人としての人生が終わるのだけは嫌だ」  老人にゆっくりと近づく。  彼も安楽椅子から下りてこちらに近づく。  しわと黄ばみだらけの口が再び開いた。 「で、イピリアン・プロセスを撮りに来たんだって?」 「はい、アラ湖を探しています。駆け出しの私に撮れるかどうかは分からないですけど、でも……」 「ごたごたうるせえな」  メイリーの必死の話を遮った彼は、呆れたような表情をこちらに向けた。 「街の中心のでかいくぼ地は見たか?」 「はい」 「それがアラ湖だ」 ──え?  一時思考が止まった。  老人を素通りし走って店の裏手に回る。  建物が周囲を取り巻く巨大なくぼ地。  底の方はひび割れるほどに干からび、水の一滴さえ、湖の痕跡のひとつさえ見当たらない。  これがアラ湖か?  図鑑に載っていた鮮やかなコバルトブルーなのか?  この枯れた大地が、水の精霊が現れるという神秘の湖なのか? 「十二の夢境はここにはねえぞ」  背後からしわがれた声。 「ど、どういうことです?」  平成を装いきれていないガルドの問い。 「誰から聞いて、あるいは何を見てここに来た」 「景色群の図鑑を……」  素人が、と吐き捨てて、老人が店の裏手に回ってきた。  ぶっきらぼうに差し出された手にバサールで買った図鑑を恐る恐る乗せる。 「パラソル社出版の『全景』、五十年前だったら権威ある図鑑だな」  状況が掴めないメイリーの隣でガルドが息を呑んだ。 「まさか」 「昔の図鑑に載っている景色が今撮れるとは限らん。イピリアン・プロセスは過去の遺物なんだよ」
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