1.一枚の写真

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 メインストリートの中央に、ガラクタ屋はあった。  錆びれた鉄板を無造作に貼り付けたような外観。  クジラのあごのように突出したカウンターに、無表情の男が立っている。  何年も通っているが、メイリーはまだ男の名前を知らない。  幸い店先に他の子どもはいないようだった。  店先にリュックを乗せて、口を開く。  他に金になりそうなものを持ってくるのを忘れていたので、カウンターの上には写真だけがぽつんとひとつ置かれた。  この写真が売れるのか分からなかった。  でも、この世界には写真家という職業だってあるのだ。  きっと売れるに違いない。  メイリーはそう結論づけて、男に向かって小さくおじぎをした。 「写真か」  男は呟いて、店の奥に消えていった。  しばらくして戻ってきた彼の手には、小さな巾着袋が握られていた。 「三十通貨(カロス)だ。受け取ったらさっさと失せろ」  ぶっきらぼうに言い放たれた言葉とともに、その袋が目の前に投げられた。 「あ、ありがとうございます!」  メイリーは言われた通りすぐにその場を立ち去った。  けれども、彼女の心はあの黄昏時の山稜に取り残されたままだった。  三十カロス。  メインストリートの屋台でパン一斤を買える程度の額。  ガラクタ単体でこれくらいの値がつくものは、今までにも見つけたことがある。  錬金術の雑誌で一回と、良質な金属板で数回。  しかし、今回稼いだ金は何かが違った。  あんな綺麗なモノを手放してしまった悔しさの中に入り交じる、よく分からない感情。  探ろうとすればするほど、霧のように散っていく。  彼女はフードをまぶかにかぶることも忘れ、歩きながらひたすら思案していた。  おかげで、入口の垣根にぶつかるまで宿屋に着いたことに気づかなかった。  ここが直近の彼女の家であり、いじめにさらされない唯一の安全地帯でもあった。  一年前にトタンと廃材でできた簡素なほったて小屋を孤児たちに壊されてから、ずっとこの宿屋の物置を借りている。  宿を経営する(ばば)に何度も頼み込み、何とかタダで借りることができたのだ。
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