序章

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鈴は思った。両親に殴られながら思った。耐え難い痛みをこらえ唇をかみしめぐっと我慢しながら強く決心した。「目の前にいる自分より弱い存在を守らなければ」と。うっすらと見える扉の向こうで涙目で自分を見ている弟。弟は優しい。とても優しい。弟の頬にある傷だって出来損ないの僕をかばってできた傷だ。もう僕を殴るだけでは気がすまなくなってΩで体の弱い弟に手を出し始めた。もう今は僕だけでは弟を守れない。弟だけでも守らなければ、安心して生きてける場所に連れて行ってあげたい。でも僕の力じゃ連れて行ってあげられない。ガチャという音が聞こえて両親が居なくなってしばらくして鈴は弟にどなる。「早くここを出ていけ。お前の居場所はここにはない」涙の溜まった目で見つめる弟に心の中で謝りながら頬を強く殴った。そしてドアを指さす。弟は俺の姿におびえて外へ飛び出していった。バタンとドアが閉まる音がすると。弟を追い出してしまった後悔が大ぶりの雨のようにどっとあふれてきた。人がいなくなって寂しくなった室内で鈴は縮こまって泣いた。「ごめんね。ごめんね」と言って泣き叫んだ。きっと外の方が安全で弟が居なくならずに悲しい思いをせずにすむ。どこかで笑ってくれるはず。きっとテレビで見た優しい大人たちが弟を救ってくれるはず。そう信じて。俺はいつか弟を迎えにいけるような強い男になるためにそして「生きるため」に立ち上がった。
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