1年目【夏】

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寮の階段を下りて、一歩、外に出ると予想以上に暑くて驚いた。 帽子をかぶっていたので頭が蒸れて暑い。おまけにマスクもつけていたので、暑くて、暑くてたまらなかった。 寮から出たら帰りたい気持ちが限界突破したため、気を紛らわせようと部屋から持ってきた水筒を取り出して、熱中症にならないように、水を飲もうとした。 「おい」 と声がした。振り返ってみると、あの男がいるではないか。メモを取り出して名前を確認する。”純”と言うらしい。 その男は眉間にしわを寄せ、口をつよく噛んでいる。 この表情は、機嫌がいいとは考えずらいだろう。  その男は、数えるほどだけしか喋ったことのないクラスメイトで、弟についての質問をしてきたやつ。俺は、こいつを一学期の時ずっと見張っていた。こいつは、ずっとお昼の間も、放課後も弟の傍にいて、弟の隣を陣取っていた。何度も、見張りを繰り返して一つの答えにたどり着いた。 こいつは、弟を狙っているに違いないと。 でも、弟を気にかけ、守ってくれてたので、何とも言えない。 だから、ちょっとだけ、自分が弟にやってあげたいことをやっているこいつが気に食わなかった。 「なに?」 話しかけてきたこいつにそっけなく答えた。あまりに冷たい声がでてしまって、ちょっと態度悪すぎたかなと反省した。 「鈴。お前は家に帰らないのか?」 純は、俺を見下ろしながらそう言った。 「俺は、勉強をしなければいけないからね。家に帰る時間も無駄なのさ。」 純の目を見ずに言った。純の傍にあるカバンを横目で見る。 こいつは、帰るのかと少し羨ましい。 「夏休みは何か予定があるのか」 こいつ、俺が友達と約束が少ないからと、雑用を押し付ける気か。 弟を取られた上に、夏休みの時間まで取られては悲しい。お前に勝てるように努力する時間を奪われてはたまらない。 「夏休みは、勉強にバイトとやることがたくさんあるからね。」 そして、心の中で、『自分がもっと、もっとできるお兄ちゃんになったら弟を返してもらうぞ。それまでは、自由にしてやる!!』と言ってやった。 でも、普通に怖かったのでそいつの顔を見ないように速足でその場を離れた。
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