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これから先を(二)
「……それは、わしには縁がないと思っていた煩わしさなんだろう」
真っ暗な洞窟のようだった男の目に、初めて淡い光が差した。
それを見て、ふっと笑った晴道が手を打った。
「どうやら心は決まったようです。今日は我々が、彼と庵へ行きましょう……で、じきに暗くなるから、あんた、そのまま泊めてくれ?」
「……薬草の匂いはどうにもならんぞ」
「もう慣れたから問題ないさ」
晴道はにっと口の端を上げた。
山を出るのは明朝と決め、師弟は集落の人々に挨拶する。その場を後にしかけた時、正弥が慌てて声をかけてきた。
「明日は俺が庵に行くけえ、それまで待っとってくれよ? 礼も渡せとらんからの」
これに二人は、ああ、と笑った。
「本当だな。せっかく用意してくれるというのに」
「正弥さんが来るのなら、きっと朝から騒々しくなりますね。まあ、その明るさも持ち味なんですが」
「おお? そう褒められたら照れくさいやないか。さては、俺を友と認めてくれた証じゃな? そんなら素直に受け取っとくかいのお」
「……あ、やっぱり、なんか面倒な人だ」
玉瀬は嘆息する。
だが、子どものように喜ぶ正弥に、それ以上首を振る気にもなれず、つられて頬を緩めたのだった。
【完】
お付き合いいただき、ありがとうございますm(_ _)m
玉瀬に、ちょっと癖のある友だちができました(笑)
距離が近くて突っ走りがちの正弥ですから、すんなり仲良くできる方と、玉瀬のように苦手意識をもつ方に分かれるかなと思いつつ(^^;)
一見あけすけな人も、案外、繊細で不器用なのでは? と考えて生まれた人物です。
ちなみに、今回の題名には、“道に迷った師弟が、山で出くわした鬼”と“生きる道に迷って山に居着いた、鬼と見紛う男”という二つの意味を込めてみました。
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