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迷子(一)
「……人がいないな」
山道で呟いたのは、三十代半ばの男、晴道だった。
太めの眉を曇らせているせいで、精悍な顔は常よりも少し頼りなく映る。
「うーん、やっぱり迷いましたかね」
続けて言った連れは、年が明けて十六になった少年だ。ただし、ひとつ年を重ねたとはいえ、人懐こさと幼顔は相変わらずで、実際より若く見えた。
新年を迎えて日も浅く、寒さも健在だ。そのため、早く人里へ出たいのだが、進むにつれ、人の往来があるとは思えぬ場所になってきた。
「迷うったってなあ、玉瀬。ずっと一本道だったぞ?」
玉瀬と呼ばれた少年は記憶を辿る。そして、ああと手を打った。
「もしかして、こっちの山じゃなかったのかも。ほら、近くにもうひとつあったじゃないですか」
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