10人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
迷子(二)
一夜滞在した町で、あの山を越えればすぐ人里だ、と聞いたまでは良かったが……晴道も思い当たって天を向く。
「ああ、そっちかあ……だが、あれは山というか、せいぜい丘じゃなかったか?」
「おれもそう思いましたけど。まあ、人の感じ方はそれぞれですから」
旅慣れているが故、大山の隣にあった控えめな山は、ちょっと起伏の激しい道くらいにしか認識していなかった。
押し寄せてきた疲れに、しばし立ち尽くす。
「……戻りますか」
「……そうだな」
ため息混じりに踵を返した時、ふと晴道の足が止まった。
「どうしたんですか?」
小首を傾げた玉瀬に短く告げる。
「人の声が聞こえたぞ」
途端、玉瀬もはっとして耳を澄ませた。息をも静かにその場に留まる。
「―――……」
「―――!」
ややあって、二人は目を見交わせると頷いた。
内容までは分からないが、確かに複数人のやり取りが耳に届いたのだ。
彼らは引き寄せられるように、伸び過ぎた草を掻き分けて、声のする方へ駆けていった。
最初のコメントを投稿しよう!