提案(一)

1/1
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ

提案(一)

「あのぅ、この男……俺らの集落に連れていっちゃあ、いかんかのお?」  意外な申し出に、師弟は目を(またた)いた。 「集落で罰を下すか? そりゃあ、今まで随分と迷惑を(こうむ)ってきたわけだからな」  晴道の言葉に、しかし、正弥は首を振った。 「いや、俺たちもそんな大層な立場と違うけえ。罰するなんぞ、易々(やすやす)とは言えん」 「それじゃあ、なぜ連れていきたいんだ?」  問われた正弥は、少し顔を強張らせながらも、男に視線を移す。 「聞きたいんじゃ……なあ? あんたは俺らに、知っとることを話す責があるじゃろう。それが済んだら、あんた自身の昔話も聞いたるけえ」  言われた途端、男は大きな笑い声を響かせた。正弥がひゅっと息を呑む。 「わしの話を聞くだと? 思い切り怯えてるくせして、よく言えたもんだな」  とっさに言葉が見つからず、身を硬くした正弥に代わって、玉瀬はすぐに言い返した。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!