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鬼のこと(一)
男を目にした集落の皆は、大層どよめいた。
男も威嚇するような態度を崩さぬものだから、人々を宥めるのはひと苦労であった。
それでも、ようやく、悩みの鬼を退治したことを告げる。正弥もすぐに請け合った。
「鬼は確かにおったぞ。ほんで、この人らがやっつけてくれたんも、俺がちゃんと見てきた」
「おお! そりゃあ、ありがたいことじゃ! あんたらは大恩人じゃよ。もちろん、きっちりお礼もするでのぅ」
皆はわっと湧いた。ただし、その表情はすっきりとしないまま――未だ男を直視できずにいる。
「ならば、この大きい奴は……その、ほんまに人なんじゃな?」
「そうじゃて、さっきから言うとろうが」
尻すぼみになった言葉に、正弥が語気を強める。
そして、知っていることを教えてくれ、と男に改めて声をかけた。晴道や玉瀬も散々促すと、男は渋々口を開く。
同時に、集落の人々が縮み上がったものだから、仏頂面はさらに凄みを増した。
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