0人が本棚に入れています
本棚に追加
ニンゲン裁判
某日 某所 時刻正午丁度、開廷の合図。
裁判官、陪審員、弁護人、被告人入場。
着席を確認後、裁判長(トカゲ族)が開廷を宣言。
「それではこれより、被告人に対し傷害、誘拐、殺人被告事件の審理を行う。被告人は前へ」
被告人(ニンゲン族)、困惑した様子で一歩前に出る。
検察官(ムカデ族)による起訴状の朗読。
「被告人の罪状を読み上げます。まず、カナヘビ族の某氏(以下甲)に対し尻尾を故意に引き抜いた傷害罪、カエル族某氏(以下乙)の子息大量誘拐罪、ヘビ族某氏(以下丙)を回転する車輪で轢いた殺蛇罪・・・・・・」
傍聴に訪れた被害者遺族の啜り泣き。
被告人、周囲を見回し、落ち着かない様子。
「再三の呼び出しにも関わらず、最終審理まで被告人が出廷しないとは・・・・・・まあいいでしょう。もちろん他にも書ききれないほどございますが、我々に対しての罪状に関しては前回までの審理で明らかになってきました。
被告人は後程、弁護人からご確認ください。
さて、今回の最終審理は被告人自身の同胞への傷害罪です。信じられないことにニンゲン族某氏(以下丁)の前脚の一部を切りました。なんとおぞましいことでしょうか」
ざわつく会場。ガベルが打ち鳴らされる。
「検察官、被告人は飢えていたのかね?」
「いいえ、まったく」
「飢えてもいないのに我々どころか同胞をも傷つけるのかね」
「はい、裁判長。ですが彼は未熟な幼体ゆえ、同胞を認識できないのできないと思われます。弁護人として、寛大な処置をお願い致します」
弁護人(ヘビ族)、一礼。傍聴席から罵倒。
「被告人は丁氏に対し、連日、暴力をふるっていました。そして某日、丁氏より金銭(注1:ニンゲン族が食事や求婚に用いる道具)を脅し取り刃物(注2:外付けの爪や牙のようなもの)を購入、その刃物の切れ味を試したいといい、丁氏の前脚に刃を当てました」
検察官、調査資料から該当箇所を読み上げる。
「被告人の言動を調査すると、彼を日常的に【おどおどして気持ち悪いトカゲ野郎】等と呼んでおりました。この時も、【また生えてくるから問題ない】【動物は返事をしない】などと発言があったと記録しております」
「……丁は【トカゲ】と呼ばれていたのかね」
「はい」
「ならば私には、族は違えど名の同じ同胞を守る責務がある。とはいえ、幼体であること、さらに再生する期間から罪状を……」
「失礼ですが裁判長殿。我々と違い、ニンゲンは脚が生えてこないのです」
「なんと!」
「ウソつけ、指は千切れちゃいないぞ!!」
「被告人、おちついて。発言は許可されていない」
制止する弁護人を振り切って怒鳴る被告人。傍聴席に丁を探してる模様。
「ちょっとナイフの刃を当てただけだろうが! ビビってアイツが勝手に動いて切っただけじゃねぇか。人のせいにしやがって。大袈裟なんだよ、縫って包帯なんか巻いてきやがって。イヤガラセのつもりか? 嫌なら嫌って言え!逃げもしなかったくせに! 」
「被告人、静粛に」
「こんなバカみたいなところに連れてきやがって。俺のドレイのくせにナマイキなんだよ。まだ騒ぐのか。卒業前に俺の人生めちゃくちゃにするつもりかよ。お前みたいなやつが邪魔していいような人生じゃねえんだよ。俺の明るい未来とクソみたいなお前の人生、どっちが社会にとって有益か考えろ!」
以下被告人、丁の名を叫び暴れる。記録すべきでない罵詈雑言は省略する。
「どこにいやがるんだ、ふざけやがって。こんなキグルミを気持ち悪がると思ってんのか。出てきやがれ、指だけじゃすまねぇようにしてやるよ、クソ野郎が!」
「静粛にと言っておるのが聞こえんのかね。・・・・・・弁護人、」
「はい、ただいま」
弁護人、被告人を口腔内に収納。そのままゆっくり飲み込む。
「お゜、あ゛」
「静かになったようなの。判決の言い渡しは後日、意義があれば申し出る事。よいかね、被告人。・・・・・・返事がないようなので、被告人の価値観に倣って、沈黙は了承と見做す。本日の審理はこれで終了とする」
閉廷。
(以上、傍聴記録)
最初のコメントを投稿しよう!