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プロローグ
桜が咲き始めるなか、環状線を走る電車から窓の外を眺める。
今年は温暖化の影響か、桜が咲き始めるのは昨年に比べ少し遅かった。三月の中旬でやっとだ。この様子だと入学式あたりがピークなのかもしれない。そんなことを思いながらいつもと同じ時刻の同じ電車の中で天野啓太は立っていた。いつもと同じ車両、同じ扉の前である。ここは彼の定位置だ。今の会社に入社してからほぼ欠かしたことはない、天野にとってこれは、ルーティーンの様なものなのだろう。
窓の外にはいつも通り駅が通り過ぎ、その奥にはいくつものビルが立ち並んでいる。そんな中をこの電車はいつも通り運行していくのだ。
そこに乱数が入り込む余地はなく、ただ川の流れに水が逆らわないように、時間が止まらないように、当たり前のように過ぎていく。
そして、いつもの駅で降り会社に向かい、与えられた仕事をこなして帰宅する。そう、変わらない毎日を送っていくのだ。
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