第三章3『落雷注意』

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第三章3『落雷注意』

 その後は特に何もなく真木の言われるがままに、電車を乗り換え、実家の最寄駅に着いた。(最後の電車が一両編成で一時間おきに来るというのには驚いたが)    電車を降り、辺りを見渡してみると、見事に畑、畑、畑である。これこそが皆が思い描く田舎というものだろう。    「で?ここからはどうするんだ?」    「もう後少しだから歩いて行く。車も少ないからいい散歩になるよ。」    確かに、さっきから車をあまり見ない。まさかタクシーもないのか?    そのまま真木に連れられ三十分歩いた先に目的地があった。(流石田舎スケール、片道三十分の距離を少しと言うらしい)    またまた、立派な家で山田さんの家よりも大きく感じる。(山田さんがわからない人は一章を読んでね)もしかして真木って良いとこ育ち?    「一応インターホン鳴らすか…」    真木はそう言うと嫌そうな顔でインターホンを押した。    さて、今から地獄の彼氏生活が始まる。天野は気を引き締めて扉の前で待つ。    ————ガラガラガラ    扉が開いた。しかしその先にいたのは。    「あ、もう着いたの?楓もメールぐらい送ってくれれば良いのに〜」    天野よりも若そうな女性だった。     似ている、目と鼻が真木にそっくりだ。妹が居たのか。    「ただいま、母さん……」    ん?嘘だよな?    しかし真木は気にする事なく玄関を上がって廊下を進んでいく。    マジなのか?何歳なんだよ、若すぎだろ……    「どうもはじめまして、楓の母の佳奈美(かなみ)です。よろしくね。」    「よ、よろしくお願いします。」    少し混乱しながら真木たちについていく。開始早々なかなかのサプライズだ……    少し驚きながらも先々進む真木について行く。離されれば確実に迷子だ。    順当に行けば行き先は真木の父親の部屋だろう。到着したことを報告しなければならないのだから。しっかりと役作りしなければ……    ——————————    「いや、どこだよここ。」    「え?私の部屋だけど。」    まさかの父親をガン無視していた。お父さん泣いちゃうぞ?いやまて、これって俺の立場が危ういのでは?    「父親への挨拶は良いのかよ……」    「うん、めんどくさいし、天野君もなんで来なかったって聞かれたら私のせいにして良いよ。」    「いや、そう言う問題?」    「良いんだよ別に、インターホン押した時点で着いたことは分かってるんだし、母さんも伝えてるでしょ。」    そう、そのお母さんなのだ。    「なぁ真木、お前のお母さんって何歳なんだ?」    「あ、やっぱり気になる?」    ニヤニヤするなぁ。    「天野君は何歳に見えた?」    「お前の母親って知らなかったら二十代って言われても疑わないよ。」    「やっぱり?みんな言うんだよねぇ。本当にお母さんなの?って」    「で?何歳なんだ?」    「聞いて驚けなんと四十一歳だ。」    「マジで?」    「マジで。」    普通俺らの年齢になると両親の年齢は五十代が普通だろう。なかなかに若い。だがそれよりも驚いているのは四十代なのにも関わらず俺は自分よりも一瞬年下に見えたことだ。あれは若作りをしているのか、もし何もせずにあの状態をキープ出来ているのだとしたら驚きだ。    「いやぁ、いいね、その反応。私この瞬間だけがこの帰省の楽しみだった……さあ、帰るか。」    「ダメな?」    「じゃあどうしろって言うのさ、もう私ここにいる理由ないんだけど。」    本当にこのことだけのために来たらしい。    「いや、俺だってお前に巻き込まれた形なんだから……」    「じゃあUNOする?」    「二人で?」    「確かに…… あ、ちょっと待ってて!」    そう言って部屋を出て行ってしまった。」    「そう言えばここ真木の部屋なのか…」    出て行った時のまま置いてあるのだろう、ぬいぐるみや参考書などが置いてある。    「今タンスの中を探ってもバレないだろう。」    「勝手に人の心の声を捏造するな。」    「でも少し思ったでしょ?」    「思わねぇよ。」    いつの間にか真木は後ろになっていた。どうやら一人ではないらしい。    「ほら、UNOの人数集めてきたよ。」    「どうも、妹の愛海(あみ)です!まさかお姉ちゃんが彼氏を連れてくるなんて思っても見ませんでしたよ。」    どうやら本物の妹の登場のようだ。     「ちゃんと妹だ……」    「え?どういうこと?」    「いや、なんでもない。で? UNOするんだっけ? 」    「そー、だから愛海連れてきたんだもん。」    「私UNOするとは聞いてないんだけど……」    「愛海さんはなんて言って連れてこられたの?」    「さん付けはやめてくださいよ、私は天野さんのことお兄さんって呼ぶんで!」    「いや、お兄さん呼びはちょっと早いなぁ。」    まず、付き合ってすらいないのでそれは話が飛びすぎだ。    「じゃあ、愛海ちゃんって呼ぶよ。」    「それでお願いします! お姉ちゃんにはですねぇ、彼氏の紹介したいからって言われて連れてこられました。」    なんでそこで説明しなかったのだろう。    「いいじゃん別に、愛海UNO好きだったでしょ?」    「そうだけどさぁ。」    「よし、配り終わったしじゃんけんね!」    いつの間にか準備を終えていた姉の真木(これからはややこしいので楓と呼ぼう)はいきなりに仕切り始めた。  この後二人は三時間ぶっ通しでUNOの相手をすることになり、盛大に後悔した。    「いやぁ、やっぱり暇な時はUNOだよね。」    「なあ、一瞬でも飽きたりはしなかった?」    「ん? 飽きる訳ないじゃん。」    「無駄ですよお兄さん、この人馬鹿みたいにUNO好きなんで……」    限度があるだろ……    まあ流石に終わるみたいだしそろそろ家の人に挨拶しに行かないと……    「さて次は何する?」    「いや、お前化け物か?」    「化け物扱いは酷い…… 普通化け物じゃなくて子供じゃない?」    「いやだってやるべき事何一つやってないぞ?俺なんのために今日来たんだよ……」    「あま、啓太くんはカニを食べたかっただけでしょ?」    「え? そうなんですか?」    いや、信じるな妹よ。事実ではあるが……    「いや、お父さんにご家族に挨拶しに来たんだろ?」    なんでか知らないけど……    心の中でそう呟きながら天野は考えた。この後の展開だ。    一 『お咎めなし。そのまま夜ご飯(蟹)をご馳走してもらう。』    二 『機嫌取りをしなければならなくなる。』    三 『夜、雷が落ちる。』    三だけは避けたいところである。真木はこんな調子だが自分が持ってきた厄介だと覚えているのだろうか? 心配である。    「だからぁ、インターホンで私たちが来たのは分かってるって。」    「そうだなぁ、確かに着いたのは知ってたが、部屋にこないとは思ってもみなかったよ。」    おっと選択肢その四、『父親自ら部屋に来る』のようだ。    「あれ〜、こんなところに来てどうしたの?」    「私用事思い出した!バイバイ!」    タッタッタッ    ずるいぞ愛海ちゃん! 信じてたのに!    「いや、待ってもなかなか来ないものだから様子を見に来た。大丈夫そうで安心したよ。」    「そう?心配ありがと、じゃあもう部屋に戻っていいよ?」    なんでそんな喧嘩越しなんだよ。    「すみません、僕が行くべきだともっとしっかり言っていれば…」    「いや、天野くん、さっきの会話は聞いていたよ、悪いのはうちの娘らしい。」    おっと、どうやら俺はお咎めなしのようだ。がんばれ楓!    ————————    結局楓はそのまま部屋に連れて行かれ説教を食らったらしい。十分後に帰ってきた楓の顔は死んでいた。
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