第三章5『異変』

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第三章5『異変』

 トントントン。    ん? 誰だろう。    「どうぞ入ってください。」    襖を開けたのは佳奈美さんだった。  どうも様子がおかしい。    「どうなさったんですか?」    「どうしたの母さん?」    流石の楓も心配そうだ。    「愛海を見てない?」    「いや、見てないけど、愛海がどうしたの?」    「いないのよ!いつもは部屋にいるのに。家のどこにも!」     「出かけてるわけじゃないの?」    「こんな時間に?あの子朝弱いの知ってるでしょ?」    「いや、でも家にいないだけで大袈裟だよ。」    「そうなんだけどね…… 実は最近愛海、ストーカーにつけられてるらしいのよ。」    「え、何それ。間違いじゃなくて?」    「無言電話もかかって来てるから間違い無いと思う。だから今不用意に外を出歩くとは思えないの。」    「何? そのストーカーが家から愛海を誘拐したって言いたいの?」    「そういうわけじゃないけど……」    「電話は?」    「勿論したけど出なかった。」    「出なかったっていうのはコールはなったの?」    「鳴ってたわ。」    「取り敢えずもう少し経っても家に帰ってこなかったらみんなで探しにいってみよ。」    「うん……」    佳奈美さんは楓に言いくるめられ仕方なく部屋を出て行った。    話に入ることは出来なかったが話をまとめると愛海ちゃんは最近ストーカーにつきまとわれていてそんな中家から消えた、ということか。    「なんかごめんね、朝から騒がしくて……」    「いや、別にいいよ。それより、ほんとに大丈夫なのか?」    「家から誘拐なんて無理だよ。それにコールが鳴ったってことは電源は切れてないってことでしょ? 普通ドラマとかは電源なんて真っ先に切るじゃない?」    出たな、こんな時でもドラマ知識が炸裂する。    「まあ、大丈夫だって。きっと朝ご飯食べてる間に帰ってくるから。」    「そうだといいけどなぁ」    その後は何とも言えない空気のまま食事をした。お父さんが何も言わないあたり、楓と同じ意見なのだろう。やはり佳奈美さんは心配なのかずっとソワソワしていた。    しかし、残念なことに全員が朝食を終えた七時になっても愛海ちゃんが帰ってくることは無かった。    「探しに行くか……」    そう言ってお父さんは立ち上がった。やはり心配だったのだろう。当然だ。    「取り敢えずもう一回電話してみて。」    「分かった。」    スマホを耳に当てた佳奈美さんの様子がおかしい。    「どうしたの?」    「コールがならない……」    「…………警察に連絡するね。」    最悪の場合に近づいてしまった。これが映画館に行っていたり電源が切れている場合ならまだいい、しかし時間が時間だ。そんなことまずあり得ない。    「天野君、こんな状況になって申し訳ないんだが、一緒に探してくれないか?」    「もちろん、お手伝いさせていただきます。」    「ありがとう。」    そう言ってお父さんは家を出て行った。    「警察に電話してみたけど全然取り合ってくれない。捜索願いを出してくださいの一点張りだった。」    「とにかく探してみないと始まらないな」    「楓と天野君は西側に行ってみて、私は東側に行くから!」    「分かった。」    「これってほんとに誘拐されてると思うか?」    「何とも言えないかな、私の中ではまだ三割程度だけど。」    「俺ここら辺全くわからないからどこ探すかは任せる。」    「了解。」    この時、俺たちは焦っていて完全に失念していた。    巻き戻しの能力を…………     「なあ、今更かもしれないけど探すってどこ探すんだ?」    「取り敢えず誘拐されてない線で行きそうな場所に行ってみる。」    「いなかったら?」    「それはその時に考える!」    「まあ、そうだろうと思ったよ。」    普通に話しているように見えて楓はなかなかに焦っている。表情もそうだが、態度に余裕がなくなって来ている。妹が居ないのだから当たり前だ。   ————————————    楓が思いつく限りの場所を探してみたが愛海ちゃんが見つかることはなかった。電話してみたが佳奈美さんたちも同じのようだ。    「家に帰って来てるなんてことないよな?」    「それだったら家に誰も居ないから不思議に思って電話するでしょ。」    「そうか…… じゃあ次はどうするんだ?」    「ここまで探していないとなると家出か誘拐だよね。警察に捜索願い出した方がいいかな。」    「誘拐だった場合、ぐずぐずしてられないぞ? 何されるか分からないんだから。」    現在の時刻は九時、探し始めてから二時間が経とうとしていた。    「なあ、佳奈美さんが最初に電話した時コールは鳴ってたんだよな?」    「そう言ってたね。 それがどうしたの?」    「いや、なら少なくとも電源を切られたのは六時から七時の間ってことだよな?」    「まあ、そうなるね。」    「その間は何で電源を切らなかったんだ?」    「まだ誘拐されてなかったんじゃない?」    そう、そうなのだ。しかしそれなら愛海ちゃんは……    「自分の意思で家を出た後に消えたってことだろ? 何でこんな時間に出ようと思ったんだ?」    「確かに……あの子が早起きすること自体珍しいのに……」    ストーカーに脅されて仕方なく家を出たとも考えられる。しかしまだ誘拐されたのかどうかすら分かっていないのだからどうしようも無い…    「こんなことになるんだったら愛海と一緒に寝とけばよかった……」    「無い物ねだりしても仕方ないだろ……」    そう、たらればは無しだ。そんなこと言っていても過ぎたことなのだから……      ん?過ぎたこと?    「なあ、真木……」    「なに?なんか思いついた?」    「ああ、思いついたというより思い出した。俺ら焦りすぎだったな。」    「え?なんか見落としてたっけ?」    「俺ら何で知り合った?」    「私が何でも屋に誘ったからだね……」    難しい顔をしながら考えていた楓はハッと思い出したような顔をした。    「そうだった。焦る必要なんて無かったのか……」    「だろ?俺らとんでもないこと忘れてたな。」    「「巻き戻せばいいじゃん!」」   そうとなれば話は簡単だ。戻って愛海ちゃんを監視するなり話を聞くなりすれば良い。    「夜ご飯食べた後に戻る?」    「いや、部屋に入った後だな。」    「え?何で?……あっ、私と寝たいから?」    少し能力のことを思い出し余裕が出てきたようだ。    「単に夕飯を食べた後から部屋までの時間が辛いだけ。」    「なるほどね。じゃあ寝たのが九時半ぐらいだったからその時間でいい?」    「了解。」    そう言って天野は目を閉じる。景色がいきなり変わるのは何度やっても慣れないからだ。    「天野君、戻ったよ。」    そう言われ目を開けてみる。しっかりと昨日寝た部屋へと戻ってきている。時間を見ると九時半、流石だ。    さて、なら事件を未然に防ごうじゃあないか
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