第三章7『It’s an illusion 』

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第三章7『It’s an illusion 』

 ありえない、俺は確かに眠らずにずっと見張っていた。愛海が自分から出ていくところも、連れ去られるところも見ていない。    「どういうこと? 確かに見張ってたんだよね?」    「あぁ、確実にこの扉からの出入りはなかった。窓はどうだ?」    「見てみたけど鍵が掛かってる。密室だったってことだね。」    つまり愛海は出て行ったのでもなく連れて行かれたのでもない、消えたのだ、マジックのように。    「仕方ない、もう一回戻るよ!」    「まて!今戻っても同じことが起きるだけかも知れない。過去視してみてくれ。」    「なるほど〜、今日は一段と冴えてますなぁ。」    「はいはい、早く見てみろよ。」    「あれ、ノリ悪いなぁ、分かりましたよ。」    そう言って目を閉じる。天野は楓の肩に手を置いた。    視界が流れ始め、スピードを上げていく。数時間前のことなのですぐにこの流れは止まるはずだ。予想通り、視界は流れ始めてから数秒で緩やかになり止まった。    部屋が見える。先ほどまでいた部屋だ。時間は三時、肝心の愛海はベットで寝ている。熟睡中だ。    「とてもじゃないけど自分で外出は出来なさそうだね。」    「確かに、ここから自分で家を出たとしたらなかなかの行動力だな。」    「じゃあ、三十分進めるよ。」    視界が少しだけ流れ止まる。時刻は三時半。愛海はまだいる。    「じゃあもう三十分。」    まだいる。    「もう三十分。」    消えた!    「この間だ、この間に愛海ちゃんは消えた。」    「少しだけ戻すよ。」    なんだか監視カメラの映像を見ているみたいだな……    「あ、四時十分だとまだいる!」    「じゃあここから二十分は見張ってみるか。」    「またぁ〜?」    「寝るなよ?」    「二十分でしょ?流石に寝ないよ。」    ————————————    なるほど、やはり姉妹は寝顔も寝るらしい。見事なまでに楓は熟睡している。もたれかかってきてる為なかなか疲れる。    しかし、四時二十五分ごろ、変化が起きた。    いきなり愛海の周りの視界が歪み始めたのだ。    「⁉︎ 真木、起きろ!」    「う〜ん…… どーしたの? 朝ごはん?」    「馬鹿!愛海ちゃんのこと見張ってたろ!」    「そうだった!どう?」    「見てくれ!なんだあれ!」    やっと覚醒した楓がベットの方を見る。だんだん愛海の姿が透けてきた。    「分からない…… もしかして能力?」    「瞬間移動のか?どうしようもないじゃん!」    しばらくして愛海の姿は完全に消えていた。完全に消えるのに十五秒ほどかかっていた。    「これ、どーする?」    「愛海に抱きついてみる? 一緒に行けるかも……」    「なかなかの賭けだなぁ、下手したら死ぬぞ?」    「その時は私が戻してあげるから!」    「え、なに、俺に抱きつけって言ってるの?」    「そーだよ、私死んだら詰みじゃん。」    「いや、それ犯罪になるから。」    だが確かにここで楓が行き、捕まるならまだいいが万が一殺されるということがあれば詰みだ。すると消去法として俺なわけだが……    「本当に大丈夫か? もし愛海ちゃんが起きたら俺ただの犯罪者なんだが……」    「大丈夫だって、愛海寝付きいいから簡単には起きないよ。」    「まあ、起きない前提で話をしようか。」    抱きつくことに関しては目を逸らすことにする。    「俺が向こうに行けたとして、そこからどうするんだ? 殺されるの待つのは嫌なんだけど……」    「ん〜、スマホの位置情報オンにしといて。場所が変わったらすぐに戻るから。」    「これって遠すぎると俺の記憶なくなるのか……相手の顔ぐらい覚えておきたいんだけどなぁ」    「場所がわかるだけで十分だよ。どうせ顔見ても誰か分からないでしょ?」    「そうだけどさぁ〜」    「それにもし殺された場合、その時の記憶も無くなるからそっちの方がいいんじゃない?」    「やなこというな、お前。自分は安全だからって……」    「え?何のことかなぁ。」    こんな時にニヤニヤしなくていいんだよ、こっちは心臓バクバクなんだ。    だが確かに死ぬ時の記憶を保持するのは気が進まない    「よし!じゃあ愛海が消える時間まで戻るよ、心の準備はいい?」    「あと3日ほど時間もらえる?」    「OKだね? 」    「せめて1日!」    「……OKだよね?」    「……はい。」    驚いた、楓があんな顔をすることが出来るなんて。あれはきっと脅迫する時の表情だ、そうに違いない。また一つ、楓の表情図鑑に新しい表情が追加されるわけだ。    「じゃあ戻るね、時間的には愛海が消える一分前に行くから、着いたらすぐ抱きついて。」    「ついに犯罪者になってしまうのか…」    「時間は戻すから犯罪は犯さなかったことになるんじゃない?」    「……おぉ、本当だ。ってそういう問題じゃないんだよ……」    「はいはい、戻りまーす。」    ————————————    目を開くと先ほどと同じ光景が広がっている。少し違うのはベッドの上に人が寝ていることだ。    「さあ、抱きつきなさい!」    「ごめん、愛海ちゃん、全部片付いたら何か買ってあげるよ……」    ゆっくりと抱きつく、愛海の暖かさと柔らかさが伝わってくる。心を無にするのだ、体に触れている感触を感じてはいけない……    必死に修行の如く心を無にしているとだんだん視界が揺らいできた。  時間が来たのだ。    「じゃあ位置情報確認よろしく頼むよ。」    「任せて、なるべく早く戻せるように努力はするよ。大丈夫、死んでも私が生き返らせてあげる!」    「もっとマシな言葉はないの?」    「…………good luck!」    やがてサムズアップしている楓の姿がしっかりとは見えなくなり、視界が突然……暗転した。    と言っても一瞬だ、ほんの数秒、視界が闇に包まれたのだ。どうやら向こうで完全に姿が消えてから移動を開始するらしい。それがこの数秒だったのだろう。    そしてだんだん視界が戻ってくる。薄暗い、どうやらカーテンを閉めているようだ。周りを見渡してみると、前には人がいる。シルエットを見るに椅子から立ち上がったらしい。飛ばす予定のない奴がいたのだ、それはそれは驚いただろう。    「だ、誰だ、お前!」    「お前こそ、何でこんなことするんだ……」    やっと顔がしっかりと見えた。男だ。当たり前だが知らない、どうやら歳はそこまで離れていないようだ。    「俺たちは結婚するんだ。運命の糸で結ばれているんだよ!」    どうやらイカれているらしい。これは完全に黒だな。    「これはお前の能力か?」    「は?何を言ってるんだ。そんなの——————」    ここで天野の意識は途切れた。        ——————————————          「やーやーご苦労さん。覚えてるかな?」    なんだそのニヤニヤした顔は……    「覚えてるってなんの話だ?張り込みの話は流石にこの短時間じゃ忘れないだろ。」    「あー、……やっぱりあそこまで遠いと範囲外か……」    なんの話をしているのかさっぱり分からない。張り込みをするからって毛布を持ってきた途端にこれだ。    「じゃあ、取り敢えず可哀想な君に状況説明をしてあげましょう!」    可哀想?俺が?
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