第二章4『百聞は一見にしかず』

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第二章4『百聞は一見にしかず』

 これは案外解決するのは簡単なのではないだろうか。何せただ場所を変えれば良いだけの話なのだ。    「じゃあ翔、明日もここにこれるか?時間はいつでも良いけど。」    「プロポーズを成功させるためだったら会社だって休んでやるさ。まあ、明日は休みだから一日中暇だぜ。」    「じゃあ、明日の十一時にさっきの喫茶店に来てくれ。そこで色々と決めよう。」    「分かった、よろしく頼むよ。」    そう言って翔は駅に向かって行った。    「私たちも十一時に集合するの?」    「いや、俺らは九時だな。」    「え〜、何で?」    「公園を見ておきたいんだ。今日は流石に遅いから無理だけど、昨日のプロポーズの相手のそのあとの行動を知っておきたい。」    「へぇー、やけにやる気ですなぁ。」    「お前は早起きしたくないだけだろ。」    「あ、バレた?」    そう言いながら真木は舌を少し出す。    「じゃあ、また明日、九時で。」    「はーい。また明日。」    そう言って天野は家に向かった。この時すでに天野は新作のゲームのことは心の奥底に封じ込めていた。さよなら愛しい新作ゲーム。    次の日、やはりアラームで目を覚ました天野は寝ぼけながらもリビングに向かう。時計を見ると午前七時。集合が九時なのでそれなりに余裕はある。天野はトースターにパンを入れ、コーヒーを飲みながらテーブルに座る。テレビをつけてみるとやはりニュースだった。どうやら雨は降らないらしい。      ——チーーン————    トースターの音が鳴りパンを取り出す。なかなかの焼き具合だ。    今更かもしれないが実は天野達の『何でも屋』、一ヶ月前の猫行方不明事件以来、何もしてこなかったのだ。理由は簡単、依頼が来なかった。    そりゃそうだ、あんな書き出しを見て誰がここに依頼何でする。一回目は奇跡だったのだ。そんなわけで天野と真木は毎週土曜日、喫茶店で『雑談』:『何でも屋』=八:二の割合で話し合いをするだけして解散、というなんともつまらない週末を送っていた。最初に感じたあのときめきは何だったのだろう。    天野はパンを食べ終わると身支度を整え家を出た。    しかし、今回は驚くべきことに真木の方が先に来ていたのだ。どうやらやる気なのは俺だけではないらしい。    「で?どこ行くの?」    「取り敢えず公園に行ってみよう。そこで彼女の反応を見てみたい。」    実は先週、天野は真木に触れている場合は、過去を一緒に見ることが出来るということが実験(遊び)中に判明した。少しは天野の能力もやるようだ。    「確か噴水の前って言ってたよね。」    「そう、ここで花束を渡してプロポーズしたって言ってた。」    噴水に着くと天野はそう確認し、目を閉じた。隣で天野は肩に触れる。    真木が視界の時間を巻き戻す時、その視界はだんだんスピードを上げていき、最後には景色を認識できなくなる。新幹線同士が通過する時の窓から窓を覗く感じだ。窓が通り過ぎていくのは分かるけれどそれがどのような様子なのかまでは分からない。しかしどういう訳か真木は見たい時間ピッタシにその巻き戻しを止める。真木曰く、『強く見たい時間をイメージするんだよ。』だそうだ。    予め、翔からプロポーズの時間は聞いている。午後の七時ごろだ。俺が自殺をしようとしているのを見つけたのが八時前ぐらいだったため、なかなか早い決断だったようだ。すぐに見つけれてよかった…    「あ、ここら辺だ。」    真木がそういうと巻き戻しのスピードがだんだん遅くなり、しばらくして止まった。その視界の先にいたのは二人の男女だ。男の方は少し落ち着きがなく、女の方は周りの景色を楽しむ余裕を持っている。    「なぁ、(あおい)。」    「なに?翔くん。」    プロポーズの相手は碧と言うらしい。しかし翔の様子が少しおかしいな。緊張しすぎだ。    「ぼっ、僕と、結婚してくれ‼︎」    そう言って翔は花束を出す。随分急だ。  「え……。それ、本気で言ってるの?」    「あぁ、本気だ。」    しかし、その翔のプロポーズに対して、碧さんはあまり嬉しそうではない。    「ごめんなさい、翔くん、そのプロポーズ今は受けられない。」    翔の顔は、あぁ、現実を受け入れることができていない顔だ。    「翔くん、あのね…」    「ごめん、俺だけだったんだね…」    「え…… ちょっと待って!」    しかし、碧さんの声はもう聞こえていなかったのか翔は走ってその場を立ち去った。碧さんが何を言いかけていたのかは気になるが彼女も翔を追って走って行ってしまったためそれを知る術はない。    ただしかし、今回のこの光景を見て二人は    「絶対成功させてやろうな…」    「そうだね…」    そうお互い決意を決め二人は喫茶店へ戻ったのだった。
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