第二章5『最終手段』

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第二章5『最終手段』

 少し重い足取りで喫茶店に着くとそこには既に翔が待っていた。    「どうしたんだよ二人とも、そんな顔して。」    「いや、どうって事ないよ。それより翔、準備はいいのか?」    「あぁ、もう場所選びの失敗はしないぜ。あんな思いもう御免だ。」    「そうだな、流石にあれはもう嫌だな。」    「体験してないくせによく言うぜ。」    「まぁそうなんだけどなぁ?」    「う、うん……」    その言葉の重みは、過去視してきた二人にもひしひしと伝わった。しかしそんなこと知らない羽山は不思議な顔で二人を見る。    「そ、それでは何日の何時に戻りたいですか?」    耐えきれなかったのか真木が切り出した。    「そうだなぁ、出来ればプロポーズする一日前に戻りたいかな。」    「分かりました。ではいくつか説明しておきます。まずその日に戻るのは今回は羽山さんだけです。私たちは戻りません。」    そう、この間初めて聞いたのだが真木は『指定した人物だけ過去に戻す』ことも出来るのだそうだ。今回は俺と真木以外と言うことになる。流石に数日やり直すのは精神的にきつい。毎度思うが便利な能力である。    「ん?その場合俺は普通に過ごしたらいいのか?」    「いえ、今日、この日の今の時刻、つまり十一時十分ですね。その時間にこの喫茶店に来てください。そこには私たちがいるはずです。」    「取り敢えず、昨日約束したとおりにここにくればいいんだな?」    「はい、その通りです、何か質問は?」    「いや、何もないよ。始めてくれ。」    「では、プロポーズ、頑張ってくださいね。」    「もう場所選びの失敗はするなよ?」    「おうよ!」    真木が目を閉じ、少ししたらそこに羽山の姿はなかった。    そのかわり扉の開く音がした。    「成功だな。」    「そりゃ、私がやったんだもん。失敗するはずが無いじゃん。」    「いや、でも俺が翔に能力使ってないと忘れてるわけだから俺のおかげじゃ無い?」    「…………」    扉の先には羽山の姿があった。  いまいち俺も理屈が理解できていないのだが、真木曰く『もし私たち以外の時間を戻した場合、私たちは戻したことを認識できないの。だって戻った人達は戻った先でも普通にその日まで生活する。私たちのいる時間軸までね。つまり私たちに追いつくって事で、私たちはその追いついた時間軸を生きてるの。だから…………」  その後も長々と説明されたのだが、俺が『つまり?』と聞くと『戻った人達が元の時間に戻るまで私たちの時間は止まってるって解釈でいいと思う。』という、分かりやすい説明を出してきた。最初からそれでよかったと思う。しかし戻った先の俺たちはどうなってるのかは真木も分からないらしい。大丈夫かそれ。    「翔!どうだった?」    流石にもう場所選びの失敗はしないだろうから大丈夫だとは思いつつ、天野は羽山に声をかけた。    「おぉ、啓太。すごいな、タイムスリップって。ほんとに戻れたよ。」    何やら様子がおかしい。おいおいまさか……    「翔、プロポーズの結果、言ってみろ。」    「ダメだった……」    何がダメなんだ…    「翔、今回はどこでプロポーズしたんだ?」    「この前みたいに曰く付きの場所に行かないよう念入りに調べて、良さげなレストランに行ってみたんだ。」    公園からレストランとは、なかなかにグレードアップしたな…    「で、どうやってプロポーズしたんだ?」    「窓際の席で指輪を渡したんだ、この前と一緒のセリフで。」    こちらもグレードアップしていた。    「ちなみに何でレストランなんだ?」    翔の口から出てきたレストランの名前はここら辺ではそれなりに有名な高級レストランだった。奮発したんだろうな…    「そのレストラン、一応聞いておくけど何か思い当たるものは?」    「う〜ん、私が知ってる限りでは何もないね。」    もうここまで来ると本気で翔と結婚したくないだけなのかもしれない。    そういえば、この前は碧さんが何か言いかけていたような。    「翔、プロポーズした後、碧さんなにか言ってなかったか?」    「なんか言いかけてたけど、その場から早く離れたかったから……」    つまり今回も途中で走り去ったわけだ。    こうなるともうこの手を使ったほうが早いのだろう。    「翔、俺と真木で碧さんに会ってくるよ。」    「え、どうする気なんだ?」    「直接断った理由を聞く。」
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