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「あの……すみません。これ、使ってください」
「わ! あなた、起きたのね……何よ、今更」
明らかに敵意を向けてくる少女に苦笑しつつも、このままでは埒があかないと強引にハンカチを少女の目元に寄せた。
「これ、使ってください。手で擦ると赤くなっちゃうので」
「……ありがとう」
意外にも素直に礼を言う少女に、沙良は少しだけ胸をなでおろした。そしてこのチャンスを逃さないように「一度外へ出て話しましょう」と提案する。少女はその言葉に小さく頷くと、カベルネに近づいて彼の目の前に手をかざした。
すると、苦しげに閉じられていたカベルネの瞼が徐々に持ち上がる。やがて寝ぼけ眼だった目線が自身を覗き込む沙良の姿を捉え、その名を呼ぼうと口を大きく開いた瞬間、少女がカベルネの口の前で両手の人差し指を交差してそれを封じた。
「まずはこの人に色々聞きたいの。あなたの処遇はそれからよ、カベルネ」
***
「それじゃ、説明してもらおうかしら」
少女は沙良とカベルネの前で腕を組んだ体制で問いかけた。すっかり日が落ちた寒空の下でぽつぽつとイルミネーションが点灯を始めている。
寒さに耐えつつ少女を見つめる沙良の横で、話すことを封じられたカベルネは不安げな顔で腕を組んで二人の動向を見守っていた。
「まず、あなたとカベルネはどういう関係?」
「ええっと……今は血を与える代わりに食事を通して健康管理してもらっているといいますか……」
「……健康管理? 吸血鬼が獲物の健康管理だなんて聞いたことがないわ!」
「どういうこと!?」とカベルネをきつく睨む少女。その視線にカベルネは顔を青くして必死に視線を泳がせていた。すると、少女は怒りでつり上がった目を苦しげに細め、先ほど沙良に手渡されたハンカチをぎゅっと握り締めた。
「結婚相手のアタシよりもこの人の方が大切なの……?」
「け、結婚相手!?」
「そうよ!なのにずーーーっとほったらかしで! 私の名前まで忘れて!」
「ええ……それはさすがに引く……」
「でしょ!?」
「結婚相手」というワードが飛び出した瞬間、沙良からカベルネに侮蔑の視線が注がれる。カベルネは身振り手振りで弁解するも少しも伝わらず、不本意な話題で盛り上がり続ける二人へのジレンマを募らせた。そしてこれ以上は看過できないと必死に少女の術を解き、ついに大声をあげて抗議する。
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