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君がいた場所
「ううー……迂闊だった」
様々な出来事に見舞われた昨日。朝に外に出てからろくに食事もとらずに温室で(不本意ながら)眠りこけ、その後日か沈んだ寒空の下延々と話し込んでいたツケだろうか。体温計には微熱を表す数字が刻まれていた。
暑さと寒さが同時に襲いかかってくるような不快感に耐えながら毛布にくるまると、寝返りを打った先で静かにうなだれるカベルネの姿が見えた。
「最低だ……。自らの手で悪化させてどうする……」
沙良が発熱したことを告げた後、カベルネはずっと部屋の隅で壁にもたれかかりブツブツ自責の念を吐き出していた。吸血すらも彼の方から断り、沙良の食事を作る以外は上の空といった様子であった。
そんな姿を見て、沙良は極めて楽観的な態度で声をかけた。
「仕方ないでしょ、昨日は色々トラブルがあったし。それに微熱だから寝てれば治るよ」
「すべての落ち度は私にある。君の健康を損なわせる権利など無い」
「人の血を飲んどいてよく言うな」と軽口を叩こうとしたが、カベルネがあまりにも意気消沈していたため沙良は静かに口を閉じた。
しかし目を閉じても眠気が襲ってくる気配もなく、仕方なく上体を起こして再度口を開いた。
「じゃあさ、カベルネのこと教えてよ。ローズマリーちゃんのことも含めて」
「……急にどうした。それより早く寝た方が良い」
「眠くないんだから仕方ないでしょ。悪いと思ってるなら暇つぶしぐらい付き合ってよ」
喰い下がられるとは思っていなかったのか、カベルネはばつの悪そうな顔をして下唇を噛んだ。そして数秒間の沈黙の後、観念したかのようにため息とともに言葉を吐き出した。
「……わかった。待っていろ」
そう言うとカベルネはキッチンの方へ向かい、紅茶を淹れたマグカップを二つ持って戻ってきた。沙良が足をどけてスペースを空けると、カベルネはベッドの端に腰掛けて湯気の立つそれを沙良に手渡した。
「そうだな……では、私が生まれ育った場所から話そうか」
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