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無頓着
「起きろ」
「んん……」
「起きろ。朝だぞ」
「今日は休みだからいいの……」
「起 き ろ」
アラームも寝静まる土曜日の朝。なぜか何度も起こそうとするカベルネに目を閉じたまま曖昧な返事をするも、一向に引く気配がないと観念して上体を起こした。
「……なんか用?」
「私ではない。君がやることだ」
「……ぜんぜん話が見えないんだけど」
「全ては健康のためだ。さ、顔を洗って着替えろ。出かけるぞ」
「はあ?」
最近、カベルネは食事の他に睡眠まで管理するようになった。それに、一応「血を分け与える代わりに健康を管理する」と契約してしまっている以上、健康のためという大義名分の前では二度寝の要望なんて通るはずがない。
充電器がささったスマホを見ると、時刻は8時を指している。未だぼうっとしている頭に鞭打ち、這い出るようにベッドを出た。そろりと下ろした足の裏に、冬の気温が広がった。
***
「で、どこいくの」
突き抜けるような青空の下、沙良は隣を歩くカベルネに問いかけた。ポケットに手をつっこんだまま歩く沙良と対照的に、カベルネは寒さなどものともしないといった様子で颯爽と足を進めている。
コートを着込んでもまだまだ寒さがこたえる12月。沙良は外気に触れて赤くなった鼻をマフラーで覆い、何も答えないカベルネの顔を見た。
「……ねえ、いい加減教えて」
「着いたぞ」
「急! てか近所!!」
カベルネが目的地に定めたのは植物園のある公園だった。なぜ公園なのか尋ねると、「今の君に足りないものは適度な運動。そしてストレスの解消だ」と満足そうな顔で告げられた。
言われるがまま植物園の中に足を踏み入れると、暖かい光と花の香りがそこかしこに充満し、まるで春のような陽気が漂っていた。久々に触れる自然の美しさに自然と沙良の歩くスピードが落ちる。
華やかな景色を楽しんでいるようなその様子を見て、カベルネは自身の選択に確信を抱き始めた。自信ありげな表情で、一際大きなオブジェであるポインセチアで出来たツリーを見ながら次の手に思考を巡らせる。
一方沙良はツリーの前から動かないカベルネを不思議に思っていると、その手前でドライフラワーが販売されている一角が目に留まった。もう一度ちらりとツリーの方向を見るが、カベルネは顎に手を置いたまま何やらブツブツと繰り返しており、こちらに気がついていないようだった。
なんとなく気恥ずかしさからこっそりと売り場へ行くと、天井から吊り下げられた色とりどりのスワッグを見上げた。
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