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「(雑貨とか、最後に買ったのいつだっけ……)」
忙しない日々に追われ、日常の彩りなんて気にかけている余裕がなかった。合理性ばかりを優先した自室は、いつの間にか生活に必要な物だけが立ち並んだ愛着のないレイアウトになってしまっていた。
長年そんな部屋で過ごしていたせいか、なんだか見る物全てが物珍しく映る。窓際にディスプレイされたハーバリウムが太陽の光を反射してきらきらと輝いていた。沙良はそれを一つ手にとり、目線の高さまで持ち上げた。青を基調としたその空間はまるで海のようで涼しげだ。これが部屋にあったら癒されるかもしれないと心が惹かれ始めた時、ふと冷静な思考が頭をよぎる。
「(でも、これって本当に必要かな……)」
いざ購入を検討し始めると、取るに足らない言い訳のような考えがいくつも頭を過る。
「(結局、いつもこうやってグダグダ悩んで踏み切れないんだよなぁ)」
雑貨を一つ買うだけだというのに、すっかり根付いてしまった卑屈さが邪魔をする。いらなくなった時にゴミに出す時の手間とか、同じ値段ならばもっと有用性のあるものを買った方がいいじゃないかとか、今考えても仕方がないようなことが頭の片隅に居座っている。買い物すら楽しめなくなっているのは末期だなぁと自己嫌悪に苛まれつつハーバリウムを棚に戻した時、ふいに背後から爽やかな香りが漂った。
振り向いた先には、色とりどりのクリスマスリースが並んでいた。沙良が近づいてじっくり眺めていると、一番端に飾られた白い花のリースが目に留まる。もっと近くで見ようとその場を離れようとした瞬間、また微かに香りが広がった。
「……ここから?」
沙良が1つリースを手に取ると、ぐっと香りが近くなる。金色のサテンリボンが赤い花々を引き立たせた、まるで花冠のような美しいデザインだった。
こんな派手な色はいつもは手に取ることがないはずなのになんだか今は妙に心が惹かれる。
「……よし」
沙良は手元のリースを握り締めると、迷う隙を与えないように足早にレジへ向かった。
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