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そう叫んだ瞬間、少女は子供のようにわっと泣き出した。先程までの隙のない姿勢が嘘のようにわんわん泣く姿を見て、今度は別の角度からカベルネの不安が煽られる。大声で泣く少女をなんとか宥めようと目の前にしゃがみこみ、両手を握って優しく声をかけた。
「ほら、泣かないでくれ。君が泣いていると私も苦しい」
「……ほんとに?」
「そうだ。ああ、目を擦ったら赤くなってしまうよ。美しい君が傷つくのは見ていられない」
カベルネがそっと少女の涙を指でぬぐうと、熱を持った瞼がゆっくりと開かれた。まるで迷子のような不安げな瞳の中にカベルネの姿が映し出される。瞬きを繰り返すたびに長いまつげの隙間をぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。少女は薄い唇を噛み締めて、静かにカベルネを見つめていた。少しずつ小さくなる肩の震えを見てカベルネが胸をなでおろした直後、少女は再び口を開いた。
「アタシの名前、呼んでよ」
「…え?」
「この子ばっかずるいわ、呼んで。それとも、言えない理由があるの?」
「そんな訳ない、だろ」
カベルネは目の前の少女と改めて向き合い、まるでお姫様に傅くように手をとり自身の口元に引き寄せた。
「会いたかったよ、麗しのマリーゴールド」
***
「えーっと……」
沙良が目を覚ますと、そこには泣き崩れる見知らぬ少女と、隣で気を失ったように床に伏せるカベルネの姿があった。あまりにも異常なその景色に戸惑いつつ立ち上がるも、少女は沙良が目を覚ましたことに気付かないほどしゃくりあげて泣いている。
陽光が射していない窓を見上げ、スマホで時間を確認すると丁度16時半を指していた。
「(嘘……私ここで何時間寝てた?)」
リースを購入してから、急に猛烈な眠気に襲われたことは覚えている。ただ、そこからの記憶がプッツリ途絶えてしまっている。幸い人気のないベンチを選んだため、この怪しすぎる光景は誰にも通報されずに済んだようだった。
壁に貼られたポスターを見ると、温室の閉館時間まで残り30分を切っていた。どうしたものかと頭を捻っても解決策は出て来ず、観念して目の前の少女に声をかけた。
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