放課後の図書室

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放課後の図書室

達川(たつかわ)君は脳内にもう1人の自分って居る?」  高校の図書室のカウンターで数学の課題をしていると、隣に居た女子生徒にそう聞かれた。  僕は図書委員で、今月が当番だった。主な仕事は返却された本を棚に戻したり、借りに来た本をスーパーのレジみたくピッとバーコードを読み込んで処理したり、壊れた本を修理したり、新しい本に透明のフィルムシールを貼ったりすることである。壊れた本も新しい本も今は無いので特にすることがない。あまり図書室に本を借りに来る生徒も居らず暇であるので、僕はカウンターで課題をやっていたというわけだ。  さて、『脳内にもう1人の自分が居るかどうか』の質問だっけ? 「ごめん、ちょっと意味がよく分からないんだけど」 「え、達川君賢そうなのに分かんない? あのね、あたし、頭の中にもう1人のあたしを作って名前まで付けてるの。勅使河原(てしがわら)いろはっていうんだけど、そのもう1人の自分はあたしのことを絶対否定しないし、誰の悪口も言わないし、あたしが怠けたら叱ってくれるし、理想の人物なんだよね。達川君はそういう人を脳内で作り上げてないの?」  賢そうというのは多分眼鏡を掛けているからだと思うが、人を見た目で判断しないで欲しい。どちらかというと僕の成績は中の上くらいで、賢いというより普通だ。そして彼女が一生懸命説明してくれた話を、僕は理解してあげられない。そういう点では賢くない。 「えっと、ごめん。作ってない」 「そっか。結構みんな居るもんだと思ってたのに」  ちぇ、と彼女は唇を尖らせ両手を後頭部で組んだ。座っているのは回転椅子なので、そのままクルクルと回り始める。「あーヤバい目が回る~」と1人でキャッキャしている様子を横目で見て、僕は彼女に聞いた。 「ところで君は誰?」
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