放課後の図書室

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「『友達。互いに心を許し合って、対等に交わっている人。一緒に遊んだりしゃべったりする親しい人。友人』」  答えは国語辞典に載っていた。それを読み上げると、彼女は興味深そうに辞典を覗き込んだ。 「対等? 対等ってなに?」  僕は無言でた行から探す。 「『対等。相対する双方の間に優劣・高下などの差のないこと。また、そのさま。同等』」  正解のはずなのに、彼女は納得いかない顔をしている。あぁ、ここに彼女の名前の答えが載っていたらよかったのに。 「あたしと達川君は対等?」  僕は少し考えて答えた。 「君は僕の名前を知っているけど、僕は君の名前を知らない。相対する双方の間に優劣が生じていることから、僕と君は対等ではない」  国語辞典の『対等』という文字に指でバツ印を書くと、彼女は何故か満面の笑みを浮かべた。え、喜ばせるようなことは言ってないんだけど。  すると彼女は自分を指さし「優」、僕を指さし「劣」と言って首を傾げた。 「…………」  なんだろう、ものすごく解せない。僕が彼女より劣っている? 名前を知らないだけで対等じゃないなんて。自分で言っておきながら、なんかすごく悔しい。 「もし達川君があたしの名前を知ったら、対等になって友達になれる?」  僕と彼女が友達……? 冗談じゃない。僕は『対等』のページを開いていた国語辞典を『友達』のページにめくってから答えた。 「名前を知ったら僕と君は対等になるかもしれないけど、この『一緒に遊んだりしゃべったりする親しい人』には当てはまらないから友達にはなれないんじゃないかな」 「一緒に遊んだりしゃべったりする親しい人……」  彼女は黒目を上に向けてしばらく考え込んでいたが、「あたしたちは『しゃべったりする親しい人』には当てはまるよね」と呟いた。いや別に親しくはないと思うけど。
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