放課後の図書室

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 平日は朝8時半からショートホームルームが始まり、6限までの日は午後3時10分に授業が終わり、7限までの日は午後4時10分に授業が終わる。今日の授業は6限までだ。  僕は朝から窓際一番後ろの自席で本を読むふりをしながら、目で教室内を舐め回すように観察していた。いや、表現が不適切だな。本を読むふりをしながら、クラスメイト達に目を向けていた。  ほぼ全員、顔と名前が一致しない。全員他クラスから遊びに来た人たちに見える。下手すれば僕が教室を間違えているのではないかと錯覚してしまう始末だ。でも机の中に置き勉している家庭科の教科書に、自分の名前が書いてあったので間違ってはいないらしい。 「おはよ~。あれ、髪切った?」 「ぎゃはは! お前馬鹿じゃねぇの!」 「昨日ね、彼氏がね……」  それにしても色々な人がいるもんだ。スカート丈が異様に短い女子、規定のズボンに上はパーカー姿の男子。この高校はあまり校則が厳しくないので、制服を着ていれば着崩そうがパーカーを羽織ろうが注意されることはない。ただ、染髪にだけは厳しいのでみんな頭だけは黒かった。  何故僕がこんなにも人を観察しているのか。それはただひとつ、名前の分からない彼女の名前を知っていそうな人を探しているのだ。  だが、早くも頓挫しそうだった。なぜなら、知っていそうな人というのが分からないからだ。この人はこうだからこうなんだろうな、などといった推論も並べられない。まずは「初めまして。あなたのお名前を教えてください」ということから始めなければならない。そんなことは僕にとっては拷問に値するので、絶対にやらない。
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