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「あの、ちょっと聞きたいことがありまして……」
「おう、なんだ?」
「えっと、人の名前が知りたくて」
「名前?」
「はい。あの、2年5組から8組で、委員会にも部活動にも入っていなくて、イニシャルがA・Tの女子生徒って誰だか分かりますか?」
言いながらやはり情報が少ないよな、と思った。もう少し特徴などを伝えられたらいいのだが、馬の尻尾みたいな髪型くらいしか思い浮かばない。福部先生は割と真剣に「5組から8組……A・T……」と顎に手を当てて考えてくれていたが、小さく両手を上げて降参のポーズをした。
「悪い、全然思い浮かばない。5組から8組の体育は俺じゃなくて佐々木先生が担当だから、佐々木先生に聞いた方が分かるかも」
「そうですか……すみません、お時間取らせてしまって。ありがとうございました」
一応深々と頭を下げると、福部先生は「いや、こっちこそありがとう」となぜかお礼を言われた。
「達川は普段こうして話しかけてくることもないから、俺は嬉しかったぞ。これからも何でも聞いてこい」
じゃあ行くな、と去り際に肩を軽く叩かれた。これはどういう意味のスキンシップだろう。誰かに触られたり誰かを触ったりすることなんてないので、意図が分からない。でも、不思議なことに嫌ではなかった。
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