放課後の図書室

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 当番を始めた時、誰も居なかったはずだった。1人で黙々と数学の課題を片付けていると、知らない間に隣に居たのだ。そして突然『脳内にもう一人の自分が居るかどうか』と質問された。驚きはしたが、悲鳴を上げる程ではなかった。僕じゃなかったら多分、事件化していたのではないかと思う。  馬の尻尾みたいな髪の毛が当たりそうになり、咄嗟に避けた。彼女は自主的に回るのを止めて速度を落とし、完全に止まってから言った。 「……あたしを知らない人が居たとは」  目が回っていて気付いてないのか、彼女は僕に背中を向けていた。君が向いている方向に僕はいない。数秒経って気付いたのか、椅子を回してこちらを向いた。 「この顔に見覚えは?」  そう言われてマジマジと見つめる。二重瞼に切れ長の目。高い鼻に血色の良い頬。唇も潤んでいて俗にいう『可愛い系』なのだろうけれど、女子に興味のない僕からしたらクラスメイトの女子は皆同じ顔をしている。見たことあるようなないような。 「2年2組の木村さん?」 「ブブーッ! 違いまーす」 「じゃあ2年2組の田中さん」 「不正解」 「2年2組の……人?」 「達川君は2組か」  僕の質問には答えず、彼女は腕を組んで顎を触った。 「てゆーか、同クラの女子の顔分かんないって、達川君ヤバいね」 「脳内にもう1人の自分を作り出してる君の方がヤバいと思うけど」 「そんな達川君にクイズです!」  顎を触っていた手の人差し指を立てて、彼女はニヤリと笑った。どうやらまともに話の出来る人ではないらしい。
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