放課後の図書室

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 騒がしかった空間は静寂に包まれた。人が絶句している姿を見るのは初めてだった。純粋無垢な彼女の瞳に、僕の瞳はどう映っているのだろうか。やはり濁っていて人間じゃない目をしているのかな。  チャイムが鳴って見つめ合っていた目を逸らしたのは、彼女の方だった。 「……じゃあ、またね」  気まずそうに立ち上がってカウンターを出て、そのまま僕と目を合わせずに図書室を出て行った。  それを見送ってから僕はふぅ、と一息ついて背もたれに体重を預けた。ギシ、と頼りない音が鳴る。  別れの挨拶が『また明日』じゃなかった。『またね』の中には『また(いつか)ね』という意味が含まれているのだろう。これで彼女はもう二度と僕の前に現れることはない。実に無駄な4日間だった。あーようやく明日から平和な放課後ライフが戻ってくる。  そう安堵したものの、喉に小骨が刺さったような、ほんの小さな違和感が一瞬だけ僕を襲った。なんだ? 今のは。 「……気のせいか」  僕は荷物をカバンに仕舞って学校を出た。
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