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委員長はそんな僕の気持ちを汲み取ったのか、「あ、いきなりごめんね」と苦笑した。
「さっきの体育祭の競技名簿にね、フルネームを書かなきゃいけないんだけど、わたし達川君の下の名前が分からなくて……」
そう言って委員長は僕にバインダーに挟まれた紙を見せてくれた。そこには『応援団』や『クラス対抗リレー』といった競技項目の隣に選手のフルネームが手書きで書かれてあった。『綱引き』のところには5人の生徒のフルネームが書かれてあったが、達川だけ名字で下の名前が書かれていなかった。
あぁ、なんだ、たったそれだけのことか。
「大きいに成るの大成で、ひろなり」
「達川大成君、ね」
委員長は達川の隣に大成と書き加え、満足そうに頷いた。
「オッケー、これで完成。ありがと」
じゃまた明日、と言って背を向けた委員長。別に何の問題もなかった。ただ書類にフルネームを書かなくてはいけなくて、分からなかったから聞いて、解決したので用はないから別れの挨拶をしただけなんだと思う。それに対して僕は何も思わずそのままいつも通り図書室に向かえばよかったのに。
「あの、さ」
僕の口は勝手に動いていた。委員長が振り向く。
「うん?」
「あ、いや、えっと、その……」
自分で自分に驚きすぎて二の句が継げない。僕は一体何をしてるんだ。委員長を呼び止めてどうしようというのだろう。
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