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「あたしは一体誰でしょう? 名前を当てられたらジュースを奢ってやろう」
「ジュース要らないから当てない」
「なんで! そんなつまんないこと言わないで当ててよぉ」
「勅使河原いろは?」
「それはもう1人のあたし! 本物のあたしは違う名前」
「……降参」
「早いな! もうちょっと考えてよ!」
どうやら彼女は僕と違って喜怒哀楽が激しい人らしい。誰も居ないとはいえここは一応図書室なのだから、少し静かにして欲しいところである。
「ヒントいる?」
「いや別に」
「ヒントはね、達川君と同じ2年生」
どうしても当てて欲しいらしい。とうとう僕の発言を無視し出した。でも同じ2年生と聞いて少しホッとした。正直3年生だったらどうしようかと思っていたのだ。知らないまま普通にタメ口で喋っていた。うちの学校には学年を表す目印がない。上履きのスリッパはみんな青色だし、制服も学年で装飾品が違うなどといったことはない。学年が違うと分かるのは、体操服のジャージの色だけだった。しかし今は2人とも制服を着ている。
「君はどうして僕の名前を知ってるの?」
面識はないはずだが、彼女は僕の名字を知っていた。僕は部活動に入っていないので先輩や後輩との交流は一切ない。委員会では多少あるが、彼女を見たことはなかったので、僕は彼女のことを勝手に他クラスの同級生だろうと思っていた。
すると彼女は手を伸ばして、カウンターに置かれた数学の問題集を指差した。
「達川大成君」
問題集は2冊あり、1冊は開いていたがもう1冊は裏返して置いていた。そこに名前が書いてあったというわけだ。聞かなくても分かったことを聞いてしまった。少し悔しかったので意趣返しをする。
「『たいせい』じゃなくて『ひろなり』だよ」
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