放課後の図書室

4/29
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
 一発で読まれないことは慣れているが、その後の反応が見物だ。大抵の人は「あ、そうなんだ。ごめんね」と気まずそうに謝ってくれるが、彼女は…… 「じゃあ、たい君じゃなくてひろ君だね!」 「達川でお願いしてもいい?」  下の名前で、ましてやニックネームで呼ばれるなんて勘弁してくれ。キョトン顔の彼女は「なんで? あたしと君との仲じゃない」と背中を叩かれた。いや初対面だろ。 「で? あたしの名前は分かったかな?」  この会話、埒が明かない。数学の課題も途中だし、静かな図書室が好きなのに今の僕にとって彼女は正直邪魔でしかない。どうにかして追い出したいのだけれど、「邪魔だから出てってくれ」とストレートに言うのは憚られる。遠回しに言う言い方はないかと考えていると、チャイムが鳴った。下校時間を知らせるアナウンスも流れる。もうそんな時間か。  結局彼女の名前は分からずじまいだが、別に知ろうとも思わないのでいいだろう。これで必然的に解散だ。 「じゃ、僕はこれで」  持ってきていたカバンに問題集とノートを入れて立ち上がる。彼女も「ちぇー」と言いながら立ち上がった。 「明日も図書室に居る?」 「当番だから居るけど……」  言ってからしまった、と思った。案の定彼女はニタァと笑った。 「じゃ、クイズの続きはまた明日ってことで」  バイバーイと手を振って彼女は図書室から姿を消した。 「…………」  名前の知らない異性の同級生と出会って約30分で、僕の疲労はピークに達した。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!