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中学2年生という多感な時期と被ってしまったこともあったのかもしれない。僕は段々イライラするようになった。
朝起きてボーっと座っている母親にイライラし、学校から帰ってきた僕に対して「ひろ君行かないで」と縋りついてくる姿にイライラし、夜寝る前に泣き叫んで取り乱す様子にとにかくイライラした。
病気だから仕方ないとか、当時の僕は割り切ることができなかった。きっとできる人はボーっと座る母にコーヒーを淹れてあげたり、「行かないで」と縋りついてくる母を抱きしめて「大丈夫だよ」と背中を叩いたり、泣き叫ぶ母に寄り添って一緒に寝るくらいのことをするのだろう。それが僕にはできなかった。
そして、事件が起こった。
いつもなら朝、家を出る前に祖母が家に来てくれるのだが、その日は「ちょっと遅くなる」と連絡が入っていた。母は椅子に座ってボーっとしていたし、少々1人にしても大丈夫だと思ったので身支度を済ませて「行ってきます」と家を出ようとした。
祖母が来ている時は玄関まで見送りに来るのは祖母だったが、その日は母が来た。座っててくれた方が良かったんだけど、と思いながら玄関を出てマンションの廊下を歩いていると、後ろから母が付いて来ていた。ギョッとしていると「どこ行くの?」と聞かれた。
「学校だよ」
「本当に?」
「本当だって」
「本当はどこ行くの?」
「だから学校だって」
母は「嘘だ」と「本当に?」を繰り返した。早く行かなければ遅刻してしまうし、あまりにも鬱陶しく、僕のイライラメーターは急激に上昇していった。そして。
「ひろ君、行かないで」
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