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「うっそ。達川君って友達いないの?」
「そうだね。いないね」
「うわ、それで平気なんだ」
「君は友達多そうだね」
底なしに明るそうな彼女はきっと世界中の人が友達だよ、なんて言うと思ったが「うん、多いよ」と言っただけだった。
「友達になってあげようか?」
「いや、結構。間に合ってます」
「友達いないのに間に合ってるわけないじゃん」
「余計なお世話だ」
もーああ言えばこう言う! と怒られた。いやそれは君の方だろう、と言いかけてやめた。こんな不毛な会話を続ける気は毛頭ない。無視して課題に取り組もうとすると、問題集を取り上げられた。
「こら、クイズに答えないとひろ君って呼ぶよ」
「…………」
それだけは絶対に嫌だ。僕は渋々ノートを閉じた。
興味がないことに対して無理矢理質問を考えるというのは、かなり酷だと思う。名前さえ当てればいいわけだから、大きい所から小さい所へ狭めていけばいいのか?
「じゃあ、イニシャル教えて」
「いきなり切り込むねぇ。えーっと、A・Tだね」
「もちろんTが名字でしょ?」
「うん」
A・T……名字が「た行」で名前が「あ」から始まるということか。で、ここからどうやって絞り込む? 「た」から始まる名字を順番に言ったらいつか当たるだろうか。
そういえば彼女が頭の中で作り上げてる人物の名字って『勅使河原』じゃなかったっけ? てしがわらも一応『T』だ。いや、でもそんな珍しい名字の人が同級生だったらさすがに聞いたことくらいはあるよな……
腕を組んでうーん、と唸っていると、視線を感じた。チラ、とそちらを見てため息を吐く。
「楽しそうだね」
「えへへ、そう見える? じゃあ楽しいんだろうね」
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