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上から落ちた。自殺。僕の身体はふわふわと宙に浮いているようだった。現実ではないような、幾分か夢見心地だった。
祖母によると、朝家に来た時、母の姿がなかったらしい。全部屋見て回ったが誰も居なくて、ベランダの引き戸が開いているのを見つけて下を見ると、人のようなものが倒れているのが見えたそうだ。なんせ15階建ての10階だったのだ。まさかと思って急いで降りると、血だらけになった母がうつぶせで倒れていたということだった。救急車を呼んだが時すでに遅く、救急隊が駆けつけた頃には息絶えていたらしい。
一瞬で朝のことが頭をよぎった。あの時僕は、母を突き放した。
『普段と違う様子で戸惑うこともあるでしょうが、決して否定したり見放したりしないでください』
医者の言葉がどこからか聞こえた。僕は母を否定して見放したのだ。
『ひろ君、行かないで』
掴まれた腕は全く痛くなかった。震えながら精一杯の力を振り絞ってSOSを発信していた母を、僕は思いっきり振り切って突き放した。
母を殺したのは、僕だ。
僕が、母を殺したのだ。
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