過去

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「警察が事件じゃなくて事故だと結論付けて帰っていったけど、どうして僕を逮捕しないんだと思った。僕が殺したのも同然なのに」  僕の話を静かに聞いていたいろはだったが、後半になるにつれて目を真っ赤にし、どういう感情なのか小刻みに震えだした。そしてブンブンと音が鳴るくらい首を左右に振って「違う」と絞り出すように呟いた。 「達川君のせいじゃない」  僕は別にそう言ってもらいたくてこの話をいろはにしたんじゃない。いろはが大好きだと言った母親を殺したことがあるんだという事実を伝えたかったのだ。そうすれば僕から離れていってくれると思ったのに。 「僕はどう言えば、どうすれば母さんを傷付けられるか、医者から聞いて知っていたんだ。それを実行に移した。知っていてやったのなら、それは完全に罪だ。僕は罪を犯したんだ」 「違うってば。達川君は悪くない。それは誰も悪くない。警察の言う通り、事件じゃなくて事故だったの。悪者なんて登場してない」 「結果として事故だっただけで、過程は事件だ。数学でも答えは合っていても過程が違えばバツになるのと一緒で、僕の行動はバツなんだ」 「達川君……」  いろははどうにかして僕を正当化しようとあれこれ言うが、僕は頑として譲らなかった。この十字架は一生自分で背負っていくのだと心に決めていたので、第三者が何と言おうと僕は殺人犯なのだ。
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