過去

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 この話をするのは2回目だった。1回目は野中君で、母の葬儀などで何日か学校を休んだ後、この話をした。当時彼はちゃんと教室に通っていて、放課後「うちに来てゲームやらない?」と誘ってくれたので、その時に話したのだ。  彼は聞き終えると「そんなことよりゲームしようぜ」と言って、聞かなかったことにされた。人の不幸話など聞いていて気分のいいものではない。野中君にとっては取るに足らない『そんなこと』だったので僕もそれ以上言わなかった。彼との間にこの話と恋愛の話はタブーなのである。  しかし異性だからかいろはは突っ込んできた。自分がやりましたと自供しているのに『達川君は殺してない』などと言う。  どうして。なぜ『達川君ひどい最低もう二度とあたしの前に現れないで』と言ってくれないんだ。そう言われた方が何倍もスッキリするのに。  足元に風が吹いた。落ちていた葉っぱがカサカサと音を立てて移動する。それを目に映していると、ポタリと雫が1滴落ち、灰色のコンクリートの色を変えた。  ……雨が降ってきたんだと思った。空は青色で太陽も上っていたが、狐の嫁入りだとかいうやつだと思った。でも何かがおかしい。  体育館と校舎を繋ぐこの廊下には屋根が付いている。斜めに降らない限り真下に染みを作ることはないし、同じところに落ちて染みが広がるはずもない。  1滴、また1滴と右と左で染みが2つになった。肩幅よりも狭い間隔。  自分の両目から落ちていると気付いた時には、ふわっと甘い香りに包まれていた。
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