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「達川君は、お母さんのことが大好きだったんだね」
いろはの声が耳元で聞こえた。背中を何かが優しく移動する。
『大丈夫、大丈夫だから』
自転車で転んで僕を落ち着かせようとしてくれた母の温もりと重なった。抱き締め、られている。
「もう自分を責めるのはやめなよ。お母さんだって、そんなの望んでないよ」
何をして、何を言っているのだろう。目から溢れるものにも理解できないし、いろはの行動も訳が分からない。
なんで、どうして。
僕は混乱した。
悲しいとか嬉しいとか感情は一切捨てたはずだった。
「やめて……」
『達川君のせいじゃないよ』
僕はそう言って欲しかったわけじゃない。
『もう自分を責めるのはやめなよ。お母さんだって、そんなの望んでないよ』
お前に何が分かる。
『達川君はお母さんのことが大好きだったんだね』
だったら何だっていうんだ。
「達川く……」
「やめてくれ!」
もっときつく抱き締められそうになって、僕はいろはを思い切り突き飛ばした。よろめいた彼女は驚いた表情で僕を見る。
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