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いろはの正体
翌日。体育祭前日。
夜はまともに寝られなかった。目を瞑れば母を突き放したあの日のことと、いろはを突き飛ばした場面とが交互に思い出され、自己嫌悪に陥る。
押し寄せる後悔になすすべもないまま、1日を過ごしていた。
どうしたらいいのか分からないので野中君に相談しようかと思ったが、彼はそういったことが苦手なので「そんなことよりゲームしようぜ」とはぐらかされるだろう。
そうやって1人悶々としている中、弁当を食べ終えた昼休憩中に1人のクラスメイトに話しかけられた。
「どうしたの、達川君。最近元気ないなとは思ってたけど、今日はすこぶる調子悪そうだよ」
2年2組のクラス委員長の加藤さんだった。体育祭の綱引き練習以外で話し掛けることも向こうから話しかけてくることもなかったので、少し驚いた。
全く関係のない第三者の加藤さんなら、何か教えてくれるかもしれない。そんな考えが浮かんで何言ってんだと自嘲した。
人と関わるとロクなことがないとあれほど思い知ったくせに。
「ううん、大丈夫。何でもないよ」
目も合わせずそう言うと、加藤さんは「そう?」と僕から離れようとした。のだが。
「何、綱引きの作戦会議? おーい、綱引きメンバー、達川んとこ集合!」
ぎょっとして声の主を見ると、背の高い相田君が手を挙げて茉里奈さんと相撲部の須山君に集合をかけた。
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