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「はい、じゃあ今日はここまで! 明日も当番?」
「うん。今月は当番」
「じゃ、また明日ね」
昨日と同じようにバイバーイと手を振って彼女は図書室から姿を消した。見えなくなってからはぁ、と思わずため息が漏れる。
なるべく誰とも関わらずに過ごしたいと思っていた高校生活に、呼んでないのに参入してくる人間が現れてすごく嫌だ。しかも異性。
『ひろ君、行かないで』
突然、頭の中であの女の声が響いた。ストレートの真っ黒い髪を腰まで伸ばし、長い前髪から少しだけ見える細い目で僕を縋るように見る女。僕の腕を掴む手は冷たく、言葉と行動がちぐはぐで思い通りにならないとすぐ癇癪を起こす人。
急に胃が痛くなり、胃酸が上がってくる気配がした。口元を押さえてトイレへ駆け込む。
「はぁっはぁっ……」
高校に入ってからふいに思い出すことはなかったのに、名前の分からない同級生と接すると嫌でも思い出してしまう。
便器に顔を突っ込んで吐くだけ吐いた。
このままじゃダメだ。早く名前を暴いて僕の前から消えてもらわないと。友達は居ないが、1人だけ関わっている同級生が居る。しかし、彼に聞いても分かるかどうかは分からない。でも、もしかしたら知ってるかもしれない。
僕は一縷の望みをかけてそいつに聞いてみることにした。
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