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 気持ちのいい日曜の朝、近くのコンビニに行った。その 途中、公園で遊ぶ若いお母さんと子どもの姿が目に入った。 男の子だろうか。子どもがお母さんの周りを走り回る。思わ ず私も微笑みながら、自分のことを思い返した。私にはこん な思い出がなかった。  私には母がいない。私が三歳のとき、父と私をおいて家を 出ていった。どうやら若い男と一緒だったらしい。だから私 には、母の記憶がほとんどない。ただ少しだけ記憶にあるのは いっしょに動物園にいってお弁当を食べたということぐらいで ある。  子どものころの私はいつもさみしさと背中合わせの毎日だった。 運動会でいくら速く走っても誰も見てくれない。授業参観で、作文 を読んでも誰も聞いてくれない。同級生はみんなお母さんがやって きて手を振って見てくれた。この誰にも言えないさみしさは生涯忘 れることはないだろう。  そんな状況だったが、父は懸命に働いて育ててくれた。晩ご飯も 弁当も毎日父が作っていた。友達の弁当はおしゃれなキャラ弁なの に、私の弁当はご飯に梅干しとコロッケだけ。それでも嬉しかった ことを覚えている。  そして私は大学までいくことができた。私もつらかったが父も同 じ思いを背負っていたはずだ。
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