ねずみの血

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 ここで、読者の皆様も経験があると思う、もう一つのことをお伝えしておきましょう。 「あれ? 思っていたより、財布の中にお金がないぞぅ?」  と感じた日は過去にありませんでしたか?  人間の感覚とは非常に鋭敏にできておりまして、たとえ一円足りなかったとしても、気づく人は気づくものです。硬貨であればまだ誤魔化せますが、これがお札であると、おやおやどうして、ショックなものですよね。  事実、大抵の場合は自分が使っちゃっています。いくら細心の注意を払っていても、お金というものは仲間がたくさんいる方へ逃げていきたがるものですから。  ですが、もしかしたら、皆様が隙を見せたほんの一瞬に、鼠小僧がスリを働いたのかも知れません。そうすると、そのお金は、ねずみの血を継いだ猫が必ずどこかに置き捨てています。当初の趣旨は貧しい人に配る、でしたが、すでに猫たちの頭にそんな考えはありません。 「ンニャ? なんか、この妙ちくりんなモノをどっかに置いとくニャ」  お金の価値は、人間にしか分からないものです。この二百年のあいだに、猫は狩猟をしなくとも食事がもらえることを覚えました。あろうことか、与えられた食事に見向きしないこともあります。  猫の習性を表す言葉として、 『気に入らないゴハンを食べるぐらいなら、喜んで餓死を選ぶ。』  という名言があるほどです。人間は、エサなら何だって食べるだろうと思っておりますが、猫は元々貴族の出です。何でも(しょく)すには、まだまだ時間がかかりそうです。
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