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鼠小僧の血を舐めた猫は、子孫のことなどまったく考えておりませんでした。ただ、ライフワークを遺伝子として残しただけ。当然のように、現代でねずみの血を受け継いだ猫も、その後のことなんか知ったことではありません。
かの吉田光由は、著書『塵劫記』の巻末に、「実力ありと思う者はこれを解いてみよ」と、十二の難題から成る『遺題』とされる問題を載せました。数学好きな者は、著名な数学者の『遺題』を解くことが楽しく、それは時を経て、より難題へと変化していきました。
ねずみの血を受け継ぐ猫たちも、「ご先祖猫がどうして鼠小僧に懐いたか」という難題は抱えております。が、誰もそんな『遺題』は何のその、まるで興味がありません。
空からたまに降ってくるお金を、気の向いたときに、気の向いた場所に置き捨てる。そこに疑問を持つ猫は一匹たりとてありません。
果たして人間は、落ちているお金を拾ってラッキーでしょうか。呪いが含まれたお金かも知れないのに、素直に喜んでよいものでしょうか。
交番に届けるか、否か。
これは、人間にとって根源的で、やや悪魔が優勢な難題だと言えるでしょう。
皆様、どうぞ覚えておいてくださいませ。
皆様は皆様の人生で、必ず一回は、ねずみの血を受け継いだ猫に遭遇しております。
けれどもやっぱり、猫にはお金の価値が分かりません。
お札より、硬貨の方が光っていて、何だか良い感じがするぐらいです。
ふと、落ちているお金を発見したときに、鼠小僧と名もなき猫の話を思い出していただけたら幸いでございます。
ネコババは好ましくありませんが、そのお金をどうするかは、皆様の良心次第です。
最後に一つ申し上げるとするならば、交番に届けるという選択肢を持つことは、何ら心を害さない思考でございます。
善い行いとは、少なからず、そうした選択肢を持つことから始まります。
ねずみの血を受け継いだ猫は、今後もますます増えていくでしょう。
実は皆様のすぐ近くで眠っている猫も、その末裔やも知れません。
名もなき猫の母である私が、不出来な息子の思い出話をさせていただきました。
皆様、最後までお付き合いいただきまして、まことにありがとうございました。
(了)
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